子どもの受診をきっかけに、親自身も発達障害だとわかるケースが増えている。発達障害は、先天的な脳の機能の発達のアンバランスが原因で、得意なことと苦手なことの凹凸が激しい。「『困っている』と言えないことが一番つらい」と当事者は言う。AERA2020年4月13日号から。
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財布を取ろうとバッグの中に手を入れた瞬間、あってはならないものに触れた。息子(4)の幼稚園に提出するはずだったプリントだ。前日に忘れたので、その日は家を出る前に何度も確認した。それなのに、園についた途端に忘れ、バッグに入れたまま持ち帰ってしまった。
「うっかりってあるよね、時々」
ママ友から慰められるが、神奈川県に住む女性(34)の場合、それは「時々」ではない。最近も夕食にトンカツを出したがソースがないことに気づき、慌てて近所のスーパーへ。ところが店に入った瞬間、他の商品に気を取られた。家に帰って夫から「ソースは?」と聞かれ、青ざめた。
息子は注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)が重複していると診断されている。目立つのは、好きな車が来ると道路に飛び出してしまう、といった多動性だ。
女性は社交的で、発達障害を持つ子の親の会を立ち上げるなど行動力も抜群だ。一方、小さい頃から気が散りやすく忘れ物やミスが多いことに悩んできた。「また失敗するかも」という不安でソワソワする悪循環。息子の主治医に話すと、こう言われた。
「お母さんも多分ADHDですね。成人向けの精神科に行けば、診断がつくレベルだと思います」
子どもの受診や相談をきっかけに、親も発達障害であることがわかるケースが増えている。発達障害とは生まれつき脳の機能の発達がアンバランスなために生じるもので、得意なことと苦手なことの凹凸が激しい。凹みの部分でさまざまな困難を抱えることが多いため、「発達障害」と呼ばれる。
小中学生の15人に1人にその可能性があると言われるが、「発達障害」という言葉もない時代に支援を受けることなく成長した大人も、悩みは深刻だ。