モルガン銀行東京支店長を経て、投資助言会社「フジマキ・ジャパン」の代表を務める「伝説のディーラー」藤巻健史氏が、巨額の資金運用をしていた時代の勝負のコツを明かした。

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 資産運用をする際、専門家の予想を参考にされる方も多いと思うが、専門家の話はポジショントークの場合もある。私の予想なんぞポジショントークもいいところだ。ポジション(金融商品などを売ったり買ったりして持っていること)を取って勝負をする人を業界用語で「ポジションテーカー」というが、私なんぞ、代表的なポジションテーカーであると同時に、代表的なポジショントーカー(ポジショントークをする人)である。
 ポジショントークとは、自分に都合のいい主観的意見を、客観的説明のごとく表現すること。これを聞くのは、「意見が偏向していて無駄だ」とか「有害だ」とお思いだろうか?
 私は違う。モルガン銀行勤務時代、巨額の資金を動かしているヘッジファンドのオーナーたちのポジショントークこそが一番の重要な情報だった。もちろん、彼らに追随するためではない。私は性格的にも「人が買っている」と聞けば「売ってしまう」性格だ。
 彼らはファンドの運営者であるとともに巨額の自己資金をファンドに投入している。自分の財産がジェットコースターのように増減するのだから、必死で市場を分析し、その結果、血ヘドを吐くような思いで自分の意見を構築している。予想が外れても「ごめんなさい」と頭を下げれば嵐が過ぎ去るやからとは違うのだ。
 だからこそ我々は、リスクテーカーのポジショントークを、客観的(と思われる)分析より重視したのだ。ポジショントークであるのは百も承知の上である。個人投資家の方々もポジションを取っている人の意見をもう少し尊重したほうがいい。もっとも、それがポジショントークであることを認識したうえでの話である。

※週刊朝日 2012年5月18日号

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藤巻健史

藤巻健史

藤巻健史(ふじまき・たけし)/1950年、東京都生まれ。モルガン銀行東京支店長などを務めた。主な著書に「吹けば飛ぶよな日本経済」(朝日新聞出版)、新著「日銀破綻」(幻冬舎)も発売中

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