4月16日、石原慎太郎東京都知事が、ワシントンでの講演で「尖閣諸島を東京都が買う」とぶち上げた。すぐさま各メディアで取り上げられ、とりわけ新聞ではその多くが「都が口を出すのは筋違い」「石原氏の発言は無責任だ」といった厳しい論調だった。
 これについて、ジャーナリストの田原総一朗氏は「無責任」は別のところにあると指摘する。

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 どの新聞も、「尖閣問題」は政府の仕事であり、東京という地方自治体の仕事ではないという指摘と、中国をいたずらに刺激すると悪影響が出るという懸念を重ねている。
「石原発言」は、こうした批判が出ることを、むしろ期待していたのではないか。中国側の「不法で無効だ」とする談話も想定どおりだろう。石原氏にとっては、できる限り騒ぎが大きくなったほうがよい。中国側を刺激しないように事なかれ主義で通す外交を「ビクビク外交」だと石原氏は怒ってきたからである。
 どの新聞も尖閣諸島は「都」という自治体ではなく、「国が保有すべき」だと主張しているが、日本政府がなぜこれまで尖閣諸島を保有しなかったのかを指摘していない。石原氏が都で買うと言っている尖閣諸島は、埼玉県に住む69歳の男性の私有地だ。藤村修官房長官は石原発言を受けて「国有化も検討したい」と表明しているが、長い自民党政権、そして民主党政権になってからも、尖閣諸島の国有化は実現されずに放置されてきた。
 民主、自民両党の議員たちの中にも石原発言を「筋違い」だとする意見が多いようだが、歴代内閣が尖閣諸島を私有地のまま放置してきたことこそが「無責任」なのではないか。

週刊朝日 2012年5月4・11日号