証券業界ではよくゲンを担ぐ。顧客に薦めた銘柄が何かのきっかけで明日暴落するかもしれないからだ。相場の一寸先は闇。そんな世界に生きる関係者は、うなぎを好んで食べる。
「うなぎ登り」にあやかっているからだ。
東京・日本橋兜町。証券会社が立ち並ぶ一角に、うなぎ屋「松よし」はある。東京証券取引所が戦後再開した1949年に創業された。兜町で最も古い、証券業界御用達のうなぎ屋だ。
創業者の江本義弘氏(88)が立つ焼き場からは、足早に過ぎる証券会社の人たちが見える。
江本氏が言う。
「今年に入ってから、足取りがバタバタと忙しくなってきたよ。昨年まではさっぱりだった4千円の『特上』も出始めた。証券マンってのは気が早い。相場の調子がいいと、すぐにうなぎを食べに来ちゃう」
3月に入って日経平均株価は1万円の大台を突破。相場の雰囲気もよくなってきた。店には某大手証券会社から久しぶりに出前の注文。なんと30人前も来たそうだ。昼飯時には団体客で座敷が満員になることも。
逆に、焼き場から流れ出てくる香りと煙に相場の回復を感じている業界関係者も増えている。
「バブルが崩壊した後、ここらの証券会社の数もだいぶ減ったからね。このまま雰囲気がよくなってほしいよ」(江本氏)
2012年4月27日号