落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「解除」。
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八五郎「『緊急事態宣言』、やっぱり解除になりませんでしたね、ご隠居さん」
隠居「あー、気長に待つしかないだろうよ」
八「隠居さんはいいですよ。そうやって家ん中でボンヤリお茶飲んでりゃ一日終わっちゃうんだから」
隠「失礼な。私だってやることが山のようにある」
八「差し当たり今やらなきゃいけないことって?」
隠「あのね……私、金曜の朝にラジオやってんだけどさ。ラジオショッピングのコーナーがあって、そこで取り上げる商品が毎回自宅に送られてくるわけよ。で、このご時世だから冷凍食品が多いのに、こないだ来たのは『カンタンに出来る糠床セット』。……胸躍らないよね、糠床」
八「タダでもらっといて失礼だな」
隠「めんどくさそうじゃない? でさ、しばらく部屋の片隅に置いといたんだよ。『誰がそんなもんやるかよ』って。『糠のくせにオレに作ってもらおうってのが図々しいよ』って放置しといたの。それから5日くらい経ったらさ、本当にやることなくなってきてさ」
八「落語の稽古とかすれば?」
隠「しないねー。平常時もしないけど、アホみたいに時間あると尚更しない。オレはぶれないね!」
八「威張るなよ」
隠「ふと糠床セットに目をやると『あたしを、貴方のその手で、作って、みる?』って誘ってきたんだよ、このオレを!……じゃあ、そこまで言うならさ……ま、騙されたと思って……」
八「手を出したと? どうでした?」
隠「メッチャ可愛いっ!! 毎日2回、かき回して……否、かき回させて頂いておりますっ!! 今、糠床育て中! もう我が家は糠床旅情で、小牧ヌカで、ジミー・スヌーカ! ヌカパラダイスオーケストラっ!!」
八「なんだかよくわかんないけどよかったね……」
隠「あとは虫だね。部屋の鉢植えに5ミリくらいのイモムシが2匹居たんだよ。黒くてちっちゃいのがピコピコ動いてて可愛いんだわ」