AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【画像】イスラム指導者に感化された少年は、次第に「学校の先生は敵」と考えるようになる。
* * *
近年、欧州で多発していたイスラム過激派の若者によるテロ事件。なぜ彼らは犯行に走ってしまうのか。
ベルギーのジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ監督の新作「その手に触れるまで」は、過激な宗教思想に傾倒していく若者の心の機微を描き、昨年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞している。
ベルギーに暮らすアメッドはイスラム教の若き指導者と出会ったことからコーランに夢中になり、「イスラム教徒は女性に触れてはいけない」と、教師との握手までも拒絶するようになる。やがてアメッドは、ナイフを手に教師に襲いかかり、少年院に送られる。コーランの教えがすべてだと疑いなく信じるアメッドは「13歳」の少年だ。
「描きたかったのは、狂信的な考えから抜け出すことは果たして可能なのか、それともどうしても難しいことなのか、ということでした」
そうリュック・ダルデンヌは言う。
「狂信性というものは、とても難しい問題です。過去の作品でも他者との出会いにより変わっていく若者たちを描いてきましたが、狂信的な考えを持つ人の心は、そう簡単に変えることはできない。では、そうした人々の心に変化をもたらすものとはなんなのか」
主人公の年齢を13歳に設定したのは、まさに子どもから大人へと成長する過程を生きているからだ。
「誰かを殺そうとする。これは子どもがすることではないですよね。一方で、指導者の言うことを何でも『うん、うん』と聞くのはとても“子どもらしい”とも言えます。10代後半の若者にはない純粋さがあるからこそ、自分の無力さも受け入れることができるのかもしれない。そこに希望を見いだしたいと思いました」
アメッドを演じたイディル・ベン・アディは、モロッコにルーツを持ち、祖父母の代からベルギーで暮らす。外科医の父を持つ彼は、“暴力”とは無縁の世界にいる。どこまでも純粋な表情を見て、アメッド役を託したいと思った、とジャン=ピエールは言う。