武漢の臨時病院 (c)朝日新聞社
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 新型コロナは中国が開発した生物兵器ではないか。トランプ大統領らの主張だ。だが軍事が専門の田岡俊次氏はその見方を否定する。疑惑は晴れるのか。AERA 2020年6月1日号の記事を紹介する。

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 新型コロナウイルス「COVID‐19」の発生源を巡って米中が激しい応酬を続けている。ポンペオ米国務長官は5月3日、ABCテレビで「武漢の研究所から出たものだという多くの証拠がある」と述べた。

 もし中国科学院武漢病毒研究所が意図的にこのウイルスを開発、培養し、それが何らかのミスで流出したとすれば、生物兵器にする目的で研究していた可能性も考えられる。であれば米国のネットで陰謀論が流布し、日本でも同調する人々が出るのも理解できる。だが、実際にはこのウイルスは兵器として使用するには全く適さない。

 兵器にとって極めて重要なのは、敵に確実にダメージを与えられる信頼性と、自軍にとっての安全性だ。この観点からみれば、新型コロナが兵器として使用するには適さないことがよくわかってくる。

 まず、このウイルスは発症までに最大で12日程度の潜伏期間があり、即効性に欠ける。その間敵兵は戦闘を続けるし、感染者の約8割は症状が出ないか軽症で、敵の戦力に決定的打撃を与えられそうにない。また熱への耐性が弱く、爆弾やミサイル弾頭に詰めて敵陣に撃ち込めば爆発の熱で不活性化しそうだ。

 航空機で散布する場合、自軍の安全性が問題になる。ウイルスで汚染される地域が不明確で、自軍が前進すれば感染する危険が高い。住民や捕虜からも伝染し、自覚症状がない将兵が帰国して本国で大流行を起こす可能性もある。

 ウイルスを培養し、冷凍などの方法で保管、空軍基地や前線部隊に輸送する際には事故や攻撃に遭っても絶対に漏れないようにする必要がある。基地の司令は、そんな怪しげなものを自隊の弾薬庫に入れたがらないだろう。

 このように効果は不確実なうえ、備蓄や使用が厄介で危険なものを兵器に使おうとする軍はまずないだろう。

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