タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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「見て」「愛して」という人は、卑しい道化者でしょうか。目立ちたがり屋は、おもちゃにされても仕方がないと。
ネットのインフルエンサーやテレビの出演者に向かって「人前に出るなら誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)にも耐えるのがプロ」「好き勝手言われることも仕事のうちと思え」と言う人たちがいます。プロとしての心得をアドバイス? いいえ、それはただ「お前は奴隷だ」と言っているだけ。人前に出ることは、何をされてもいい慰み者を引き受けることではありません。
リアリティーショーの過剰な演出やネットの誹謗中傷を、出演者に「心の強さ」を求めるだけで野放しにするのはもうやめなければなりません。台本ナシを装いながら巧みに誘導して強烈なキャラを演じさせ、視聴率を稼ぐ。ネットの炎上は、番組的にはむしろおいしい。本人も知名度が上がるのだからいいだろう。それでこれまで世界中で何人が死に追いやられたか。自己責任やプロの自覚などという言葉で口をふさぎ、極端な見せ物に仕立て上げ、視聴者はネットで「悪役」に嫌悪や侮辱を浴びせかける。出演者は、コロッセオで血まみれになって勝ち目のない戦いを続けるしかありません。リアリティーショーとネットの誹謗中傷はグルグル循環する暴力の娯楽。多額のお金が動く命のショーは、もうやめるべきです。
匿名アカウントでタレントの誹謗中傷をしてスッキリした翌朝、会社に行って真面目に働く人も、我が子に愛情を注ぐ人もいるでしょう。そのどちらの面も本当であるように、人前に出る人間にも複雑で繊細な心があります。傲慢(ごうまん)キャラでもいい人キャラでも、それは加工された一部でしかありません。
私たちの視線と言葉は、人を殺しも生かしもする。個人の心がけだけでは暴力はなくなりません。メディアやプラットフォームは、そのことにもっと自覚的であるべきです。
※AERA 2020年6月8日号