加えて原は、外で音を採取するフィールド・レコーディングで音を集めることを、ある種のライフワークとしているところがある。今回のアルバムには自分で採取した音はもちろん、誰かが採取した音まで、作品に溶け込ませている。つまり、20年前の音もついさっき閃いた音も、自分が集めた音も、誰かが採取した音も、全て横一線。ありとあらゆる音に均等に愛情を注いでいるような作品なのだ。

 もちろんそれを可能にしたのは機材の発達と技術の進歩が大きい。京都の原の自宅には機材がそろっており、今回の作品の一部もその自宅スタジオで作られたという(基本はフィッシュマンズなどで知られるエンジニアのzAk氏のスタジオで録音された)。けれど、原が音楽家として音に優劣をつけず、ヒエラルキーという壁を超越させようと働きかけた。だからこそ『PASSION』は聴くと穏やかだが、実は「あらゆる音はリベラルであれ!」というテーマに挑戦したような作品になったのではないかと思う。

 そんなニュー・アルバムに『PASSION』というタイトルを与えたことについて原はこのように語っている。

「今回のアルバムのタイトルを『PASSION』にしようと思った時に、音楽家になろうと思っていたあの情熱を思い出させてくれたというのもあって。でも、PASSIONという単語には「情熱」という意味以外に「受け入れる」という意味もあって、それは大人になって色々なことを受け入れながら進んでいくという状況も意味しているんですよね。でも、10代の頃の、まだ何も考えずに純粋に情熱を持っていた頃の思いというのも一方であるので……それでアルバムに入れることに意味があると思ったんです」

 アルバムに収録されている「Passion」のPVは地元・京都の祇園にある名刹(めいさつ)、建仁寺(けんにんじ)で撮影されている。原と交流のある俳優・森山未來が、翁の面をつけ、しなやかな踊り(舞い)を披露。そのPVからは、あらゆる音、あらゆる価値観を超越しようとする原の思いが、建仁寺の庭園にむした苔(こけ)のように静かに時間をかけ、醸成されてきたことが伝わってくる。

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