作家の高樹のぶ子さんの最新作『小説伊勢物語 業平』がヒットしている。歌物語「伊勢物語」をモチーフにした在原業平の一代記だ。作家・林真理子さんと高樹さんとの対談では、手紙の重要性から英雄論まで語られた。
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林:『業平』の中に和歌の手紙がありますが、私、昔、源氏をゼロからやったときに、国文学の先生に「会ったこともない男女が、好きだ好きだってヘンじゃないですか」と言ったら、先生が「手紙の文字、歌のうまさ、墨の濃淡、紙の選び方、添える枝、すべての美意識とセンスが手紙に出ている。これが本当の恋愛じゃないですか?」って言われて、目からウロコでした。
高樹:そうなのよ。手紙の中に、全部の品格と教養と、その人の過去すべてのものがある。書き散らした文字の習熟度とかね。だんだん年齢を重ねるようになると字も変わってくるし、人生のいろんなことが集約されてるわけ。
林:そうなんですよね。今、NHKの朝ドラで「エール」ってやってますけど、主人公のモデルになった作曲家の古関裕而さんと奥さんは、文通で知り合ってラブラブになってくるんですよ。文通の中で「写真がほしい。あなたが醜くても美しくても、あなたを愛する心には変わりありません」とか。
高樹:へぇ~、そうなんだ。
林:ついこの前まで「平凡」とか「明星」に文通欄があったように、日本ってそういう文化があったんじゃないかな。
高樹:あったんだと思う。書かれた文字と、そこにある言葉と、そして手紙の香り、五感があるじゃないですか。中には絵を描いたりする人もいるし、過去の歌からとってくる「引き歌」というテクニックもあって、どれだけ古の和歌を知っているかという教養にもつながるし、すべてが詰まっている。それを指導する女房が近くにいたら、それも女性の力。全部あらわれてますよね。
林:それを読み取れて書ける業平って、やっぱり魅力的ですよ。この本にある業平は、非常に知的でエレガントな男の人でした。すごくいい男だと思った。