指導した北島康介選手、萩野公介選手が、計五つの五輪金メダルを獲得している平井伯昌・競泳日本代表ヘッドコーチ。連載「金メダルへのコーチング」で選手を好成績へ導く、練習の裏側を明かす。第24回は「我らが板橋」。
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「東京アラート」が6月11日に解除され、少しずついつもの日常が戻っています。練習拠点の東洋大プールでも少人数ながら練習が再開できています。
大会から遠ざかっている中、どのようにレース感覚を取り戻していくか。あれこれ考え続けた結果、少人数、無観客、手動計測の「大会」を、東洋大プールで開くことにしました。
この時期に地中海沿いで複数の大会が行われる欧州グランプリ(GP)「Mare Nostrum」(我らが海)をもじって「Itabashi Nostrum」(我らが板橋)と名付けました。
会場は板橋区にある東洋大プール。6月11~21日にかけてバルセロナ大会(2日間)、カネ大会(2日間)、セッテコリ大会(3日間)を行います。欧州GPと同じ競技順序で午前中に予選、夕方から決勝があります。「競技会でしか得られないレース感覚や集中力・耐乳酸能力などの向上をはかる」という目的で競技会要項を作り、選手に申し込みをさせました。
選手と話をしながら出場種目を決めていきました。興味深くくいついてくれて、うれしく思いました。
東京五輪が開かれていれば実際に欧州に行って参加を考えていた大会でした。それがバーチャルになったわけですが、速く泳ぐというより、いかに真剣に臨むかということが大切だ、と選手たちに伝えました。
「我らが板橋」で重視しているのは「選手の想像力」です。いつも練習しているプールで、気持ちが盛り上がらないような状況ですが、きちんとウォーミングアップをやって、仲間の応援をしながらがんばって泳ぐ。本番のレースに近い状態に自分の気持ちを持っていけるかどうかが、一番大事だと思います。