田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社
田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 (c)朝日新聞社
この記事の写真をすべて見る
イラスト/ウノ・カマキリ
イラスト/ウノ・カマキリ

 河井克行前法相と妻の案里参院議員が夫婦同時に逮捕されるという前代未聞の事件。ジャーナリストの田原総一朗氏は、不平等極まりないやり方で選挙資金を案里氏側に提供した自民党の総裁として安倍晋三氏の責任が問われていると語る。

【この連載の画像の続きはこちら】

*  *  *

 6月17日に安倍首相は、野党が延長を強く求めるのを押し切って、国会を閉じた。すると18日、それを待っていたかのように河井克行前法相と妻の案里参院議員が、公職選挙法違反容疑で逮捕された。国会議員夫妻が、同時に逮捕されるのは前代未聞である。当然ながら、全マスコミが大きく報じた。

 昨年の夏の参院選に案里氏が立候補して当選したのだが、広島の参院選挙では過去、自民党と野党が1人ずつ立候補して議席を分け合ってきた。ところが、昨夏の参院選で、その安定していた選挙区に自民党は2人を立候補させた。一人は、当選5回で現職の溝手顕正元防災担当相である。そして、新しい一人が案里氏だったのだ。

 自民党の広島県連は、案里氏の出馬に強く反対したということだ。2人も出せば1人は落選する、と見込んでいたからである。自民党本部は、県連の反対を強引に押し切る形で、案里氏を立候補させたのだ。

 安倍首相は、「何としても2人を当選させたかった」と語っている。

 だが、溝手氏側には、選挙資金として1500万円しか提供していないのに、案里氏側には何と10倍の1億5千万円を提供している。不平等極まりないやり方である。

 これはどういうことなのか。

 夫の克行氏は、県議を経て1993年の衆院選に出馬して落選し、96年の衆院選に自民党公認で初当選したが、2000年の衆院選でまた落選した。しかし、12年の自民党総裁選で、全面的に安倍氏を応援して認められ、15年には首相補佐官に任命された。そして、法相にまで上り詰めたのである。

 どうも、溝手議員が安倍首相に対して相当強い批判をして、これに怒った安倍首相の側近たちが、溝手氏に議員を続けさせるわけにはいかないと決め、強引に克行氏を口説いて、案里氏を立候補させた、ということのようだ。こうなると、1500万円と1億5千万円のすさまじい不平等さが理解できる。

 そして河井氏側は、広島県の県議、市議、そして首長ら94人に現金約2570万円を配った、と検察が明らかにしている。

 なぜ、これほど大勢の人間たちに、これほどの現金を配らなければならなかったのか。

次のページ
河井夫婦の立件だけでは済まされない