実は、かつて溝手氏が「安倍首相は、もう過去の人だ」と批判していたのである。だからといって、安倍首相が「溝手氏を落とそう」と宣言したのではないだろう。
おそらく、安倍首相の側近の誰かが、「溝手は安倍首相の批判をしていてケシカラン。あの男に国会議員を続けさせるわけにはいかない」と憤り、安倍首相がそれに同意したのであろう。要するに安倍首相へのごますりである。
広島県の自民党参院議員は溝手氏が長く務めており、当然ながら、広島県の自民党支持の有力者たちは全員、溝手氏の応援団であった。そして、河井氏を当選させるためには、何としても溝手氏の応援団である有力者たち、つまり県議や市議、そして市や町の首長たちの大半を河井氏側に転向させなければならない。つまり、溝手氏に対する裏切りをさせる、ということだ。そのためには大量の現金をばらまく必要があったのだろう。多くの有力者たちは現金を受け取りたくなかったはずである。
それを強引に受け取らせるためには、自民党本部から、受け取らなかったらお前の将来はない、というような脅しが入って、受け取らざるを得なくなったのではないか。
だからこそ、検察の調べに対して、ほとんどの有力者たちが容易に自供したのであろう。
となると、河井夫妻を起訴して有罪にしただけでは、事件の表面を切っただけである。
本当の責任者は安倍首相ではないのか。検察はどこまで実相に迫れるのであろうか。
■ 田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数