地元の有力者たちに現金をばらまいたとされる河井克行前法相と妻の案里氏の買収事件。ジャーナリストの田原総一朗氏は、ほとんどの有力者たちが検察に容易に自供した理由を分析する。
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7月8日、東京地検特捜部は、前法相の河井克行容疑者と、妻で参院議員の案里容疑者を公職選挙法違反(買収、事前運動)の罪で起訴した。
昨年7月の参院選を巡り、広島県内の地元議員たち100人に計約2900万円を渡したというのである。
それにしても、広島県の県議、市議、あるいは市長、町長などの有力者たちに対して、なんとも露骨な、どぎつい現金のばらまき方である。
まるで、金権政治が当たり前だった、40年以上前の田中角栄時代のやり方である。金権政治をやめるために小選挙区制に改革されたはずなのに、今どき、こんな大っぴらなばらまきをやっていることに、国民のほとんどはあきれ果てている。
だが、河井夫妻は無神経でも時代認識が欠如した人物でもなかった。
では、なぜこんな時代錯誤なばらまきをやってしまったのか。このスキャンダルは奥が深いのである。
2019年の参院選に、案里氏が出馬しようとしたとき、自民党の広島県連は強く反対した。広島の参院議員は、自民党1人、野党1人で安定していたからである。自民党の参院議員は溝手顕正氏で、すでに5期当選していた。
だから、自民党の広島県連は、せっかく安定しているのに、なぜわざわざ混乱させるのか、と大反対したのだ。おそらく、溝手、河井両氏のいずれかが落選することになる、と。
それを自民党本部が強引に2人の出馬で押し切ったのである。
もっとも、このとき安倍首相は、何としても2人を当選させると強調したが、河井氏側に提供した資金は1億5千万円で、溝手氏側には1500万円と、10倍もの開きがあった。このことで、自民党本部の本音は如実にわかる。言ってみれば、溝手氏を落とそうと図っていたのである。
なぜ、こういうことになったのか。