「新型コロナウイルスで起きている現象は、従来の『空気感染』で表してきた現象というよりむしろ、『近距離エアロゾル感染』と表現する方がいい」(押谷さん)
英語では空気感染を「airborne transmission」と表現する。WHOは、空気感染とエアロゾル(エーロゾル、飛沫核)感染は同じだと説明する。しかし、押谷さんは、「近距離エアロゾル感染」とした方が、実態を正しく説明できると言うのだ。
エアロゾル(飛沫核)は、ウイルスを含む直径5マイクロメートル(千分の5ミリ)以下の微粒子だ。気管挿管などの医療行為で生じることが多い。医療機関以外では、ウイルスを含むしぶき(飛沫)が乾燥してできるほか、くしゃみや咳、会話や呼吸でもある程度は発生し、体外に排出されているとみられる。
飛沫は、唾液やのどの粘液などのしぶきで、直径5~10マイクロメートル程度だ。くしゃみや咳、大声で話したり歌ったりした時に発生する。重力により比較的短時間で落下し、1~2メートル程度しか飛ばない。感染者がマスクをせずに大声でおしゃべりやくしゃみをすれば、真正面の至近距離にいる人には飛沫がかかる可能性がある。
一方、エアロゾルは軽いので飛沫より空中を長い間漂うため、より遠くまで到達し、少し離れたところにいる人も吸い込む可能性がある。これがWHOの言う、広い意味での空気感染だ。
実験やシミュレーションでは、大声の会話で発生するエアロゾルは屋内を数分~数十分、漂い続けるという報告もある。239人の専門家は、エアロゾルは何十メートルも飛ぶ可能性があるとの見解を示す。
ただし、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授(ウイルス学)は、感染を考える上では、エアロゾルが空気中を漂う時間や距離だけでなく、エアロゾル内で病原体がどれぐらい感染力を維持しているかという点も重要だと言う。
「新型コロナウイルスについては、エアロゾル内でどの程度、感染力を保っているのかはまだ不明だ」
「近距離エアロゾル感染」も含めた空気感染が起きる可能性があるとしても、取るべき対策は変わらないと河岡さんは言う。
これまでも呼びかけられてきた、換気の悪い「密閉空間」や多くの人が集まる「密集場所」、近距離での会話などの「密接」という、「3密」を避ける対策だ。(ライター・大岩ゆり)
※AERA 2020年8月3日号より抜粋