エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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新聞労連の南彰委員長や東京大学大学院の林香里教授ら有志がまとめた「ジャーナリズム信頼回復のための提言」。7月10日付で報道機関129社の幹部に送付した(撮影/写真部・高橋奈緒)
新聞労連の南彰委員長や東京大学大学院の林香里教授ら有志がまとめた「ジャーナリズム信頼回復のための提言」。7月10日付で報道機関129社の幹部に送付した(撮影/写真部・高橋奈緒)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【新聞労連の南彰委員長ら有志がまとめた「ジャーナリズム信頼回復のための提言」はこちら】

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 今年1月、桜を見る会の疑惑追及の最中に首相とメディア幹部らが会食したのに続き、5月には朝日新聞社員と産経新聞記者が定年延長問題の渦中にあった黒川弘務前東京高検検事長と賭け麻雀(マージャン)をしていたことが発覚。メディア不信が高まりました。

 メディア企業の記者たちが、市民の知る権利に応えるという本来の目的を見失って権力と懇意になることを競い、その関係維持のために排他的な体制を作り、結果として視点の多様性が失われていることが批判されています。そればかりか権力に利用されるような状況に陥っていることに対して「メディアは私たちではなく政権の方を向いている」と怒りの声が上がっています。取材のためにはやむを得ないというメディア幹部たちの態度から、特権意識とおごりを感じ取った人も多いでしょう。

 これを受けて新聞労連の南彰委員長や東京大学大学院の林香里教授ら有志が「ジャーナリズム信頼回復のための提言」をまとめ、7月10日付で報道機関129社の幹部に送付しました。私も発起人の一人です。7月23日現在で現役記者ら900人以上の賛同人が集まっています。

 提言の内容は、排他的で形骸化しがちな記者クラブを、市民に開かれた真剣勝負の場にすること、権力者を安易に匿名化しないこと、男性中心の職場を多様化すること、報道倫理ガイドラインを公開することなど6項目。メディアの自己開示と体質改善を求めています。信頼回復には、内向きの体質を改め、組織の課題を自ら開示して透明性を高めることが第一歩です。

 一方で、報道機関なんか不要だという風潮も危険です。メディアは社会の畑。そこに育つ情報は人が生きるために不可欠で、土壌汚染は人心を蝕(むしば)みます。耕作放棄するのではなく、自ら鍬(くわ)を入れること。より良いメディアは市民が一緒に作るものだと思います。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年8月3日号