「マー君」が、ついに神の領域をのぞいた。楽天イーグルスの田中将大投手が防御率1・27という驚異的な記録を打ち立てた。セ・パ両リーグ通じてトップ。野村克也前監督が「神の子」と呼んだ22歳が、「神様」と称された稲尾和久(西鉄)の1・06に次ぐパ・リーグ歴代2位に名を連ねた。
両リーグ通じても歴代5位にランクイン。歴代10傑を見ると、田中以外は全て1970年までの記録だ=表(1)。40年以上も未踏の聖域に足を踏み入れたわけだ。
星野仙一監督が「考えられんな」と絶句するのも、もっとも。それだけの快挙なのに、本人は「今年は球が(統一球に)変わりましたから」とそっけない。低反発の統一球が導入された今季、確かに「投高打低」の傾向は強まった。昨季はダルビッシュ有(日本ハム)だけだった防御率1点台が7人(セ3人、パ4人=10月21日現在)も出た。12球団の本塁打数も半減した。田中の発言はこうした全体の状況に配慮したものだ。
だからと言って、田中の偉業は決して輝きを失わない。防御率以外の各投手部門1位もほぼ総ナメ=表(2)。沢村賞の7項目の選考基準(25登板以上▽10完投以上▽15勝以上▽勝率6割以上▽200投球回以上▽150奪三振以上▽防御率2・50以下)もクリアした。同じく全項目を満たしたダルビッシュを総合的に上回り、先発投手最高の栄誉に最も近い位置につけている。
駒大苫小牧高時代、夏の甲子園で早稲田実の斎藤佑樹(日本ハム)と歴史的な投げ合いを演じた球界随一の人気者。ただ、2007年の入団以来、投手タイトルとは無縁だった。では、今季はなぜこんな好成績を残せたのか。
全ては、昨秋の屈辱から始まった。