AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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子役から大人になったものの問題を抱える22歳のハリウッドスターが、12歳の自分とアルコール依存症の父との関係を振り返る──。本作が長編劇映画監督デビューとなるアルマ・ハレル(44)は、子役とステージパパの物語を、溢れる光とエモーションに満ちた作品に仕上げた。
聡(さと)い子とダメな親という構図は定番だが、現役スター、シャイア・ラブーフの自伝的ストーリーだと知ると、胸が締め付けられる。ラブーフは「スピルバーグの秘蔵っ子」と言われ、若くしてスターになったものの、飲酒運転や迷惑行為で逮捕されるなど、トラブルも抱えてきた。その彼がリハビリの一環として書き始めたのが本作の脚本だ。
「映画で22歳の主人公がセラピストにうながされて、自分のことを書き出すシーンがあるけれど、まさにあの状態のシャイアから脚本の第1稿が送られてきて、『監督をしてくれないか』と言われたの」
出会いは2011年。ハレルの作品を気に入ったラブーフがハレルに連絡し、その後、ミュージックビデオなどでコラボレーションを続けていた。二人の間に信頼が芽生えた一番の理由は、子ども時代の共通の体験だという。
「私の父もアルコール依存症だった。依存症の親を持つ子どもはみな同じような経験をする。本人が依存症になることも多いし、大人になる過程で自分を守るメカニズムを身につけてしまい、そのために結局自分自身を傷つけてしまう。私も何年もかけてそういう自分と向き合ってきた。この作品を通じて、同じ境遇の人々に、同じ人がいるよ、こういう向き合い方があるよ、と伝えたかった。でも、シャイア的には『やらなければだめだ』という思いだったでしょうね」
映画はラブーフにとって文字通り“セラピー”になった。彼は物語のなかで、自分を苦しめた父親を演じている。
「父親に値する演技をしたい、悪い演技をしたくない、という恐怖心と闘っているのがわかった。鼻にプラグを入れて父親の声や笑い声を作り出すなど、物理的にもすべてがチャレンジだったと思う。シャイアは常に自分の生活や人生よりも、自分の芸を優先してしまうところがある。そこからいろいろ大変なことになってしまうのだけど(笑)、そうした彼のすべてがこの映画に反映されていると思う」