10月4日、ウォン・円相場は100ウォン=6円42銭と、2年半ぶりの安値に沈んだ。ピーク時の4年前と比べると約半値に急落しており、リーマン・ショック後の2008年10月1日に付けた過去最安値(同6円8銭)に迫っている。

「ギリシャの財政問題の深刻化で、アジアから欧米の投資資金が急速に逃げ出しています。特に韓国はこれまで資金が大量に入っていたうえ景気低迷と物価高の懸念で、他のアジア諸国より売りが加速してます」(ジェトロ・アジア経済研究所の奥田聡・動向分析研究グループ長)

 韓国の景気は急速に冷え込んでいる。8月の韓国の貿易黒字は8億ドルと、7月の63億ドルの8分の1に落ち込んだ。世界景気が再び減速するとの懸念から韓国製品への需要が急減したためだ。

 韓国は1997年のアジア通貨危機以降、サムスン電子など輸出企業中心の経済体制を構築。国内総生産(GDP)の輸出依存度は46%と突出している。輸出立国と言われる日本でも13%にとどまり、米国は8・7%に過ぎない。

 韓国経済に詳しい作家の三橋貴明氏がこう分析する。

「ひとたび世界景気が変調すると韓国経済は大きな打撃を受けやすい。韓国は成長の糧を外需に頼りすぎてしまいました。また、韓国の輸出企業は日本から資本財を輸入してテレビなど最終製品を組み立てています。韓国企業と取引する日本企業は、業績面で打撃を受けるでしょう」

 物価高も深刻だ。韓国は輸入依存度も高く、ウォン安は輸入品の価格上昇につながりやすい。「韓国聯合ニュース」によると、ソウル市内では8月、ガソリン価格が1リットル=約2300ウォン(約160円)まで上昇し過去最高値を記録。8月のCPI(消費者物価指数)は前年同月比プラス5・3%と、韓国銀行(中央銀行)の物価目標の4%を大きく上回った。景気が低迷する中で、物価が上昇するスタグフレーションの懸念が高まっている。

◆週末に韓国旅行、カタツムリ粘膜◆

 もっとも、われわれ日本の庶民にとっては悪いことばかりではない。ウォン安で韓国旅行のお得感が増している。1万円を両替すると、4年前は7万5千ウォンだったのに、今なら15万4千ウォンももらえるのだ。韓国でお金を使えば、韓国経済の手助けにもなる。

「今は韓国旅行に行く絶好のチャンスです。日本から近いため、週末に旅行に行く人も増えていますよ」
 と話すのは流通ジャーナリストの金子哲雄氏。

 韓国観光公社によると、8月に韓国を訪れた日本人観光客は33万人。前年同月と比べて24%増えた。欧米向けの旅行が減少する中で、「安・近・短」の需要を満たしているという。
「ウォン安の効果で格安のツアーも出ています。新幹線で東京から大阪を往復するより安いものもありますよ(笑い)」(金子氏)

 宿泊予約サイト「楽天トラベル」をのぞくと、羽田発の最安値はなんと2泊3日2万9800円だった。ネット以外では、地方発の激安ツアーが話題だ。ヴィーナストラベル(大阪市)は、山口県下関発2泊3日9800円で販売している。

「韓国は買い物天国。最近は化粧品が人気ですね。少女時代など韓流スターの影響で、韓国人女性の肌が奇麗と思う日本人女性が増えているようです。特に、カタツムリの粘膜エキスの入ったスキンケアなどが人気です」(韓国の流行に詳しいライターの八田靖史氏)

 韓国の化粧品専門店によると、カタツムリエキスが配合された高級化粧品「プレステージ・クリーム エスカルゴ」は6万ウォン(約3800円)と、日本の定価6200円の4割引きで売られていた。カタツムリの粘膜が保湿を高めるという。その他の高級化粧品も日本の定価と比べると3~4割引きだ。

 たばこもお買い得の一つ。

「日本で値上がりして以来、免税店のたばこはかなりお得感が強い」(金子氏)

 マイルドセブンは1カートン1万8千ウォン(約1100円)程度。日本の定価4100円の4分の1近い。

「ただ、一人が購入できるのは、日本製1カートンと、マールボロなど外国製1カートンの2カートンのみ。それも空港の免税店でだけ販売しているので注意が必要です」(観光ジャーナリストの千葉千枝子氏)

 さらに、人気が高まりつつあるのが「医療観光」。

「韓国といえば、やはり整形手術でしょう。最近はハリやマッサージを使った体調を整える韓方(かんぽう)治療もはやっています。いずれもウォン払いなので、日本より安いと人気です」(千葉氏)

 韓国政府は医療観光を成長産業として後押しし、国策として取り組んでいる。10月1、2日に東京ビッグサイトで開催された、各国の政府観光局が参加する「旅博2011」では、韓国観光公社が整形手術のカウンセリングを行うブースを設置したほどだ。

「自らも実際に整形手術をした女性カウンセラーが韓国の病院から来て、自分の『ビフォア』と『アフター』の写真を見せながら、相談を受けてました」(韓国観光公社の広報担当者)

 韓国観光公社傘下の医療観光案内センターで紹介している病院で費用を尋ねると、二重瞼(ふたえ
まぶた)手術の最低費用は200万ウォン(約13万円)だった。

「ただ、整形はトラブルも多く、旅行保険も適用されないため、自己責任になります。よく相談して決めましょう」(千葉氏)

 さらにさらに、ウォン安を利用してアメリカやヨーロッパへの旅行を安くする方法もある。ソウル発着の航空会社を利用すれば航空券代を安くできるのだ。

 観光コンサルタントの宮口直人氏が言う。

「韓国への航空券は2万~3万円程度。それを考えてもウォン安の今なら成田発着よりソウル発着がお得。成田まで遠い地方の人には利用価値が高いといえます。特にビジネスクラスはおすすめ。年末の海外旅行にいかがでしょうか」

 格安航空券大手のH・I・Sで、東京-パリ往復のビジネスクラスを検索すると、年末の繁忙期の始まる12月25日の最安値はキャセイパシフィック航空で33万5千円(燃油サーチャージ・諸税別)。

 一方、H・I・Sのソウル支店では、日本からのチケットの予約を受け付けている。ソウル-パリ往復を検索すると、なんと最安値はKLMオランダ航空の300万ウォン(約18万円)と、10万円以上割安だった。

「余裕のある人はソウルで1泊してから欧米に旅立つ2度おいしい旅行はいかがでしょうか」(宮口氏)
 年末はぜひ韓国へ。  (本誌・常冨浩太郎)


週刊朝日