指導者として心掛けているのは「教えすぎては育たない」ということです。これは2000年シドニー五輪に向けて北島康介の指導を始めたころから、自分の指針にしてきました。指導する側が細かく指示を出し、選手が「言ってくれたことをやる」という受け身になると、自ら成長する機会を奪うことになります。
4年生には「本音を言えるようにまとまれよ」などとアドバイスをします。悩みも聞いて、とことんつきあう。人を育てるには、めんどくさいことを、きちんとしなきゃいけないと思います。
五輪でメダルを狙う選手は、自分を信じて高い目標に向かって努力する主体性が不可欠です。
昨年の8月から東京五輪に向けて、萩野公介、大橋悠依ら社会人を含む6人の選手を強化してきました。東洋大の水泳部員も2人います。3年の白井璃緒(りお)、2年の今井月(るな)です。女子200メートル個人メドレーでリオ五輪に出場した今井はエースに成長していく可能性を持ちながら、それを自分で引き出すことがまだできていません。インカレを突破口にしてほしい。
(構成/本誌・堀井正明)
平井伯昌(ひらい・のりまさ)/競泳日本代表ヘッドコーチ、日本水泳連盟競泳委員長。1963年生まれ、東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。86年に東京スイミングセンター入社。2013年から東洋大学水泳部監督。同大学法学部教授。『バケる人に育てる──勝負できる人材をつくる50の法則』(朝日新聞出版)など著書多数
※週刊朝日 2020年9月11日号