菅内閣が16日に発足し、その顔ぶれからは派閥への配慮が色濃くにじむ。あまりの配慮ぶりには自民党内からも異論の声が上がる一方、議員たちは解散総選挙の時期に神経をとがらせている。AERA 2020年9月28日号の記事を紹介する。
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その顔ぶれを一言で評するのならば、派閥の、派閥による、派閥のための人事ということだろうか──。
16日に発足した菅新内閣。初めての閣議の後、恒例の階段で記念撮影に臨んだ新大臣たちだったが、その顔ぶれは「いつか来た道」を彷彿(ほうふつ)とさせる、極めて新鮮味に欠けるものだった。菅義偉首相を除く20人の閣僚のうち初入閣は5人、再任は8人、横滑りは3人。菅首相は当初から「安倍政権を継承する」と公言していたが、それを見事なまでに体現したと言えるだろう。
■女性の大臣は2人だけ
再任は内閣だけでなく、党内人事でも目立った。幹事長に二階俊博氏、国会対策委員長に森山裕氏をそれぞれ再任。また、組閣と同時に行われた参院議員の特別総会で、世耕弘成氏も参院幹事長に再任された。その世耕氏は新内閣の顔ぶれについて「それぞれの分野に精通した、極めて実務家がそろった」と持ち上げてみせた。
しかし、「実務家」とされるのは上川陽子法務大臣、田村憲久厚生労働大臣ら数人だ。また、首相の肝いりで新設されたデジタル改革相に抜擢(ばってき)された平井卓也内閣府特命担当大臣は、元IT担当大臣でIT分野に明るいという。ただ、コロナ禍を機に日本のデジタル行政の後進ぶりが明るみに出て、これをどう挽回、推進していくのか難しいかじ取りを迫られそうだ。
一方、安倍政権を引き継ぐと言いながらも、安倍政権の目玉政策だった「女性活躍」の分野は前進どころか後退した。新内閣における女性の人数は、前政権よりも1人、さらに数を減らしたのだ。国家の意思決定の場における女性は、わずか2人。「おじさんによる、おじさんのための密室政治」との有権者からの批判は免れないだろう。就任記者会見で、菅首相は女性活躍に触れたものの、熱意は感じられなかった。
代わり映えしない新内閣に、自民党の大臣経験者の一人は不安を隠さない。果たしてこの顔ぶれで総選挙を勝ち抜けるのか疑問だと言うのだ。
「組閣は総理大臣になって最初の仕事であり専権事項。もし、この人事を本人が一人で決めたのであれば、自分を担いだ派閥への論功行賞。派閥の領袖(りょうしゅう)に意見を求めたのであれば言いなり。つまり、この人事は有権者よりも派閥を向いて、これからも政治をやるという宣言のようなものに見える」
(編集部・中原一歩)
※AERA 2020年9月28日号より抜粋