だが、阪急電車への感謝を示す所作は、本科生へのあいさつに変わっていったようだ。
「学校でも街でも、先輩に会えばあいさつをしなければ、いけません。どの車両に本科生が乗っているか分からない。電車が通るたびに一両、一両に、ペコペコと頭を下げ続けました」(東さん)
生徒の自主性に任せるという学校の方針があったためか、先生が「指導」に口を出すことはなかったと卒業生らは振り返る。そのため本科生によって「指導」の内容は変化したようだ。
81年に首席入学し、雪組のトップスターとして活躍した、たかね吹々己(ふぶき)さんも朝日新聞の取材に、廊下に明け方まで立っているよう本科生に言われ、
「1時間も眠れない日もありました」
こう証言している。東さんが受けた、行き過ぎた「指導」が、特殊な事例だったとは言えない。
宝塚音楽学校の堀内直哉事務長は、「指導」が存在した事実は認めたうえで、こう説明する。
「過去には、行き過ぎた指導がありました。しかし、2010年ごろから、こうした行き過ぎた指導があれば、生徒を交えて話し合い改善しています。10年ほど前から阪急電車へのお辞儀もありません」
最後に東さんは、強い口調でこう話した。
「まだ10代の子どもに、『自主性を重んじる』という名目で、学校が指導を丸投げした結果の、ひどいパワハラでした。もっと早く、学校の大人が動くべきでした」
(本誌・永井貴子)
※週刊朝日 2020年10月2日号