コロナ禍で編み物や刺しゅうなど手芸がブームとなっている。それを牽引するのは、なんとシニア男子。手芸リケダンも目立つそうだ。令和のニューノーマル、手芸男子たちとブームを追ってみた。
Zoom画面に、編み物好きの男性10人ほどが集合した。長崎や広島からの参加者もいる。いずれも、男子による編み物サークルのメンバーだ。手を動かしながら、思い思いに雑談を楽しむこの時間は、笑い声が絶えない。
「たった1本の毛糸が、思い思いの作品に変化する過程がたまらない」
参加者のひとり、埼玉県和光市に住む会社員の佐藤和浩さん(60)は、3年前まではシステムエンジニア(SE)だった。生粋の理系男子だ。
編み物に目覚めたのは40年ほど前。同僚と毎晩飲み歩く新米SEは、いつも月末は金欠状態。あるときその同僚が、
「俺たちが飲んでばかりなのは、ひまだからだ。時間がかかると聞く編み物をやってみようか」
冗談だと聞き流していたら1週間後、同僚は編み物を始めていた。それならば、と挑戦したが難しい。おたがい地方からの上京組のひとり暮らしで、教わる相手もいない。いとこのお姉さんがくれた男の編み物の本を手本に必死に覚えた。
実は80年代は、男子編み物ブームにあった。テレビでは、男性が挑戦する編み物コンテストの番組が放送され、小説家の橋本治さんも元祖編み物男子として、浮世絵やアイドル写真を図案にセーターを編む本などを出していた。
30代に入ると仕事の合間をぬって講座に通い、講師の資格を取った。妻にも可愛らしいカーディガンやセーターを編んだ。
「日曜大工も少しやりましたが、道具や材料をそろえるのがおっくうで続かない」(佐藤さん)
手軽にできる編み物は生活スタイルに合っていた。朝の通勤時間や会社の昼休み、数分の待ち時間など、すきまを見つけて手を動かす。
サークルに入部したのは7年前。笑いながら、こうふりかえる。
「それまでひとりで向き合っていたので、男の人がごく自然に、たくさんいるんだなあと驚きました。昔は、毛糸屋さんに足を踏み入れると、おばさまたちにジロジロと見られて大変でした」