昨年4月、東京・池袋で高齢者の運転する車で母子が死亡した悲痛な事件から約1年半。車を運転し11人を死傷させたとして自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)罪に問われた旧通産省工業技術院元院長・飯塚幸三被告(89)の初公判が8日、東京地裁で開かれた。飯塚被告は起訴内容を否認したため、世間では驚きや怒りの声が噴出。長期化必至の裁判について専門家からは意外な指摘が……。
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8日午前8時50分。小雨が静かに降り注ぐ中、遺族の松永拓也さん(34)が事故で亡くなった妻と長女の遺影を胸に抱え、しっかりとした足取りで東京地裁の正門に入っていった。報道陣によって一斉にフラッシュがたかれても、視線は常にまっすぐ前を見据えていた。
この日の一般傍聴席は新型コロナ対策のため、わずか20席。「コロナ前」の約3分の1の席数に、414人の傍聴希望者が集まった。
事故は2019年4月、高齢者による自動車事故が社会問題化する中で起きた。
検察側の主張によると、飯塚被告の運転する車は時速約96キロで、赤信号の交差点に突っ込んだ。自転車で横断歩道を渡っていた松永真菜さん(当時31)と長女の莉子さん(当時3)がはねられ死亡。通行人ら9人が重軽傷を負った。
何の落ち度もない幼い子どもと母親が巻き込まれ、事故直後から世間の関心は高かった。さらに、注目を集める要因の一つとなったのが、飯塚被告に対してネット上で使われた”上級国民”というワード。「証拠隠滅の恐れがない」と判断されて、飯塚被告が逮捕されなかったことなどから、「元官僚で東大卒の上級国民だから、特別扱いしているのでは」といった声が噴出した。格差社会を象徴するような存在とみなされた飯塚被告。遺族への同情もあり、飯塚被告の言動は世間の反感を買った。厳罰を求める署名は39万筆も集まった。
とはいえ、世間には飯塚被告が裁判で罪を認め、真摯に謝罪するのではないかという淡い期待もあった。しかし、初公判では無罪を主張。罪状認否では、遺族への謝罪を述べたうえで「アクセルペダルを踏み続けた記憶はない。車に何らかの異常が起きて暴走した。暴走を止められなかった」と主張し、起訴事実を否認した。