この日の冒頭陳述で、検察側は「事故前の車の定期点検ではブレーキやアクセルに異常が見つかっていなかった」と述べており、「自動車の瑕疵(かし)」をめぐって真っ向から対立の様相を見せている。
初公判のニュースが流れた直後、ネット上では驚きの声であふれた。また、「全然反省していないのではないか」「これでは遺族が浮かばれない」といった批判も相次いだ。
気になる裁判の行方について、過失運転致死傷に詳しい「にわ法律事務所」の丹羽洋典弁護士は、次のように推測。判決確定まで長くかかりそうだという。
「一般的に、車の性能に関する裁判は長期化する。少なくとも通常の2倍はかかるのではないか。今回も長期化のおそれはある。通常のケースであれば、1審だけでも半年。今回は1年近くかかるでしょう」
今回の初公判で世間が驚いたのは、飯塚被告の主張だ。
「自動車に問題がある場合も、可能性としてはあり得なくはない。一般的に自動車事故は、運転者の過失の有無が争点になりますが、今回は道路上で暴走したという特殊なケースですので、こうした主張ができたのでしょう。本人が供述している以上、むげにはできないため、自動車自体に瑕疵(かし)がなかったかという争点も加わることになったのだと思います。被告側にとっては、無罪の可能性が出てくるので都合がいい」
いくら本人が供述しているとはいえ、そう簡単にその主張が通るものだろうか。
「検察は、車の性能に問題がなかったという証拠を揃えてくるでしょう。弁護側には立証責任はありませんが、丸腰で臨んだら検察側の主張が通ってしまうので、瑕疵があったと証明するための証拠が必要になります。ただし、技術者や鑑定の専門家から証言を得る必要があるため、時間がかかる上、立証するための難易度が高いですね。時間だけがかかってしまうと思います。どこまで本気なのか疑問はあります。自動車に瑕疵があったという主張も、認められた例も数としては多くありません」
また、今回の裁判は別の意味でも注目度が高いという。
「これらから自動運転が普及することが予想されるので、こうした『車の問題点』を指摘する主張が増えてくる可能性が高い。飯塚被告の主張が下手に通ると、今後はこうした事故で、ブレーキが利かなくなったといった主張が多くなる。司法側も慎重に判断することになるでしょう。今回の裁判は、今後の試金石になる」
長期化必至の裁判。2審、3審と続けば、最終決着は数年後……仮に有罪判決が下った場合、89歳の被告が量刑を終えるのは何歳のことだろうか。
遺族や世間は、誠実な説明を望んでいる。(AERAdot.編集部/飯塚大和)