1950年の「戦争目的の研究には絶対に従わない」とする声明、67年の「軍事目的の研究を行わない」とする声明は、そうした問題意識の強さの表れだと杉田さんは言う。ただその後、日本学術会議内で軍事研究の議論はほとんど行われなかった。重い腰を上げたのは、2015年度に防衛装備庁が大学などに研究を委託する「安全保障技術研究推進制度」を始めたことがきっかけだ。

「国内にも軍事研究に近いものが浸透しつつある中で、それをどう考えるべきかが問われました」(同)

 17年の声明は50年と67年の過去の声明を「継承」するとし、学術と軍事の間の緊張関係や大学などが負う責任を明確にした上で、大学や学会などに研究の適切さを審査する制度やガイドラインの設定などの対応を求めることまで踏み込んだ。杉田さんは今回の人事問題と17年の声明の関連について「政府が理由を説明しない限り、分からないとしか言いようがない」としながらも、こう言及した。

「声明発表から1年後に実施した大学などの研究機関に対するアンケートでは、回答した機関全体の約7割が何らかの対応を行い、半数近く(45.2%)が声明をきっかけに軍事的安全保障研究の適切性に関する審査制度を新たに設けたり、検討を始めたりするなど、声明が真摯に受けとめられたことが確認されています。軍事研究を推進したい政治家らの間に、こうした声明への批判的意見があるとしても不思議ではありません」

■210人で4500万

 菅義偉首相は「(日本学術会議は)年間約10億円の予算で活動している。任命される会員は公務員の立場だ」と強調するが、杉田さんは実情をこう明かす。

「10億円の予算や公務員であることを強調されると、会員が公務員並みの月給を受け取っているかのような誤解を生みますが、固定給はなく、会議の日当が出るだけです」

 加藤勝信官房長官が明らかにした人件費の内訳(19年度決算)によると、毎年約10億円が計上されている日本学術会議の予算のうち、同会議の事務局の常勤職員50人の人件費が約3億9千万円。一方、会員手当として支払われたのは、定員210人の会員(連携会員は約2千人)に対し総額でわずか約4500万円だった。杉田さんによると、年度途中で会議に参加するための旅費が足りなくなることもあるという。

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