パロディや風刺、二次創作はどうなる?
今回摘発されたのは動画だが、以前よりインターネット上ではヌード写真に女性芸能人の顔写真をすげかえ、あたかも女性芸能人のヌード姿に見せかける「アイコラ(アイドルコラージュ)」は多数存在していた。三平弁護士によると、法的には動画の「ディープフェイクポルノ」も写真の「アイコラ」も変わりがないという。
「報道だけでは『AIによる加工』の詳細は不明ですが、特定の人の顔写真を、ネットからうまくくっつきそうな写真や動画を見つけてきて合成する点では同じです。この作業を手動で行うか、AIを活用して自動で行うかという違いがあるにすぎません。もっとも手動で行うといっても、画像加工ソフトを操作するだけで、実際の合成作業はコンピューターがやっているわけですが」
「アイコラ」といえばポルノ系のものが主流だが、ポルノ以外でパロディや風刺、二次創作などの目的で行った場合はどうなるのだろうか?
「ポルノ以外でも同じです。イラストや写真などの原画を著作権者の承諾なく使うと刑事では著作権法違反になり、民事では損害賠償請求の対象になります。似ているイラストを自分で描いた場合でも、似せた程度によっては違法とみなされることもあります。少し話は逸れますが、イラストに関しては具体的な内容で違法性が決まります。以前、和歌山カレー事件の林真須美被告が、手錠と腰縄を付けられた状態でイラストとして描かれ、名前も明記された状態で雑誌に掲載されたことがあります。林被告が名誉毀損と肖像権侵害で出版社と雑誌編集長を相手取って裁判を起こし、名誉を毀損するものとして損害賠償請求が認められたことがあります」
今後、ITやAIの技術発展により、将来的にますます本物と区別がつかないほどの精巧な「ディープフェイクポルノ」や「アイコラ」が出てきても不思議ではない。
「少し前までは、『イラストであれば作者の主観や技術が介在するため、肖像権侵害にならない』といわれてきました。しかし、最近では写真をイラスト風に変換できるアプリがたくさんあり、似せた程度は高まる一方です。今後、写真とイラストの区別がなくなっていくかもしれません。『法律が技術に追いつかない』と言われることがよくありますが、技術は常に進んでおり、法律が後から追いかける流れは普遍的なものです」
技術の進化が即、悪用につながるとは限らない。過度な規制は論外だが、今回のような悪用については現行法に照らし合わせつつ、カバーしきれない部分については新たな議論や法整備が必要になってくるだろう。
(文・吉川明子)
取材協力:三平聡史弁護士
みずほ中央法律事務所代表弁護士。同事務所のホームページでも法律に関するコラムを執筆している。