女優の若尾文子さんは、2007年に夫の建築家・黒川紀章さんを亡くした。その最期の様子をがん診療に造詣が深い帯津良一医師との対談で明かした。

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帯津医師(以下帯):ご主人の黒川さんの亡くなり方も素晴らしいですよね。病室での最後の会話で若尾さんが「私、あまりいい奥さんじゃなかった」と言うと黒川さんは「そんなこと(ない)。本当に好きだったんだから」と答えられたと聞いたんですけど。

若尾さん(以下若):あれは本当です。そんな劇的なシーンじゃなかったんですけれどもね。

帯:わりと急に亡くなられていますよね。

若:いえ、そうでもないんです。2年ぐらい前にすい臓にがんが見つかって、その手術をして。公表はしていなかったんですけれど。

帯:そうですか。すい臓がんはやっかいですからね。

若:ええ、ずいぶん手を尽くしたんですけれども、やっぱりうまくいかなくて。

帯:ご主人は病気になられて、死は覚悟されていたんでしょうか。

若:そうみたいですね。でも、私には何も言いませんでした。私は本当に最後の最後までそれを知らなかった。最後の会話で初めて聞いたんですから…。まあ、がんかも? と、どこかで思っていても、言われない限りは、信じたくないし、怖くて詮索もしたくないじゃないですか。きっと私が冷たいのね。普通だったら、無理やりにでも聞くんでしょうが…。言わなかったのは、言うと私がガタガタになると思ったんでしょう。私の仕事のことも大事に思ってくれてましたし。最後の会話をして、亡くなったのは、その明くる朝です。

週刊朝日 2013年2月1日号