エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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滞在した豊岡市エコハウスからの眺め。森の香りに包まれ、鳥や虫の声、魚の跳ねる音を聞きながら仕事に集中(写真:本人提供)
滞在した豊岡市エコハウスからの眺め。森の香りに包まれ、鳥や虫の声、魚の跳ねる音を聞きながら仕事に集中(写真:本人提供)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】滞在した豊岡市エコハウスからの眺め

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 絶滅したコウノトリを半世紀かけて復活させた自治体があります。城崎温泉で有名な兵庫県豊岡市。そんなコウノトリの営巣地に立つエコハウスに友人がワーケーションで長期滞在していると聞き、行ってきました。

 東京から電車を乗り継いで5時間あまり。城崎温泉駅から円山川を渡ったところに、ラムサール条約で保護されている戸島湿地があります。人がこまめに手を入れてコウノトリや水鳥に適した美しい自然環境を守り育てています。

 そのほとりに立つ豊岡市エコハウスは、木の香りのする環境共生型住宅。夜には生き物たちの気配がすぐそばに感じられます。コロナ禍で持続可能性の課題が再認識されている今、滞在中に多くの気づきを得ました。自然との共生は手がかかるけど、そのコストはかけるに値するものだと実感します。始まったばかりのワーケーションの取り組みですが、需要は増えそうです。

 豊岡市は演劇など文化事業にも注力しており、城崎温泉には現代的な洗練も感じます。国内外で視野を広げた若いリーダー層が育ち、老舗旅館などで世代交代が円滑に進んだのが地域再生の鍵だったそうです。市の目下の課題はジェンダーギャップの解消。若い女性が地元に戻らない背景には、旧来の性別役割分業や男性優位の構造があります。市では女性が働きやすい職場づくりや雇用創出に取り組み、地元企業が男性育休を導入するなどの変化も。とはいえ、まだ男尊女卑的な価値観も残っているとのこと。

「地方では男女平等の実現は不可能だという人もいる。コウノトリ復活も初めはそう言われたが、実現できた」という中貝宗治市長の言葉が印象的でした。自治体も自然も手入れを続けなければ、存続は難しい。若い女性が暮らしやすい場所であるかどうかは、これからの地域づくりの重要な目安だと思います。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年10月26日号