日本体育大学保健医療学部救急医療学科長・教授で救急医療の指導医の小川理郎さんは、そう話す。救急医療や災害医療の現場で多くの命を救い、看取ってきた。長い経験をもとに、おひとりさまが陥りがちな思考パターンを示す。
とかく、おひとりさまは自らのことを過信しがちだ。
周りに気を配ってくれる人がいないことがそんな傾向を招くのだろう。
「血圧が高めとか、かつて手術をしたことがあるとか、まず自分の健康状態に合わせて行動することが大事」(小川さん)
記者も胸に手を当てて考える。血圧はひときわ高いのに、若いころと変わらない気分がどこかに巣くっている。酒には強いほうで、興が乗ってくるといまもショッパイやつで一升酒を飲んでしまう。イカンと思いながら、まあイイカ。そう繰り返しつつ“シニアへの道”をひた進んでいる……。
「特別な日、例えば記念日も危ないんですよ」(同)
誕生日や結婚記念日などは大勢で集まることが多い。普段、一人で暮らすことの反動で、睡眠不足になったり、無理をして生活習慣が乱れ、血圧が異常に上昇したり、弾みで大けがしたりすることがよくあるという。
記者も痛恨事を思い出す。
10年ほど前、サッカーJリーグのホームタウン活動で月に一度会合をしていた。師走のある日、メンバーのひとりの男性が誕生日とわかり、近くの居酒屋でささやかなパーティーを開いた。いつもは口数少ない人だったが、楽しそうに話す姿に、こういう面もあるのかと温かい気持ちになった。しかし次の日の昼、彼が亡くなったことを知る。40代後半で一人暮らしだった。誰か近くにいて早く発見してくれたら……。
体調の急変や大きなけがの場合は、救急車を呼ぶべきだ。でも、サイレンは近所迷惑になる、といった理由で救急車を呼ぶことをためらうおひとりさまもいるだろう。
「緊急性がなく時間に多少なりとも余裕がある場合は『民間救急』を呼ぶ方法もあります」
そんな選択肢を示すのは、「ニッポン寝台」代表の宮武勇司さん。20年以上民間救急車を派遣し、苦しむ人を救ってきた。最近は、おひとりさまの依頼が目立つそうだ。
民間救急は緊急性がない場合の通院や入退院、転院などで患者を搬送する有償サービス。即時の対応はできないが、ストレッチャー・車内装備は消防救急車とほぼ同等で、サイレンを鳴らすこともなく、病院まで搬送してくれる。状況に応じて看護師、救急救命士の同乗が可能で、車内で医療行為が必要な場合は医師が同乗することもある。