■有害な男らしさを放置

 大阪府の女性(44)は小5の息子に「ぬいぐるみのことは絶対、誰にも言わないで。秘密だから」と口止めされている。息子は今も寝る時はぬいぐるみと一緒だが、周囲に知られると、異常扱いされるのではないかと恐れているのだ。夫が冗談半分に「オネエとかになるなよ」と言うことにも女性はひっかかる。

「それが差別につながると思うんです。それに将来、息子が男性を好きになる可能性もゼロではない。その時私は、受け入れようと思っているのに」

 小学生の頃、代表や委員長になるたびに保護者や先生に「女の子なのに偉いね」と言われるのが苦痛だった、と話すのは、高校2年の女子生徒(17)だ。中学から女子校だが、理系科目の男性教諭から「女の子だから数学ができなくても当たり前」などと言われ、可能性を閉ざされるような気がした。

 中2の時に女性教諭から初めて「ジェンダー」という言葉を聞き、「私が感じていたモヤモヤはこれだったんだ!」と膝(ひざ)を打った。自分でも調べ始めると、おかしなことがいっぱい転がっていると話す。

「ナンパされたことを自慢げに話す友人もいますが、『モテる=自分の価値が高い』って勘違いしてるのかなとか。周りの女の子で痴漢被害に遭ってる子もたくさんいます。声を上げたくても皆、仕方ないと諦めてる」

 弁護士の太田啓子さんは、性暴力やセクシュアルハラスメントの加害者の多くは男性だが、実はその萌芽(ほうが)が男の子の子育ての中で放置されている、と指摘する。離婚やハラスメント事案を数多く手掛けてきた太田さんは、2人の小学生の息子の母親でもある。著書『これからの男の子たちへ~「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)では、大人たちが「男の子ってバカだよね」と許容する言動の中に、暴力や性差別につながりかねない「有害な男らしさ」が含まれていると警鐘を鳴らした。同書は8月の発売直後から話題になり、現在4刷だ。

「多くの母親がうっすら感じていたことを、言語化したからだと思います。男性の読者からも『ギクッとした』という感想をもらいました」(太田さん)

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