横綱で思い出したが、千代の富士も面白い人だったね。彼が横綱としてがんばっているときに、俺がたまたま九重部屋で飯を食う機会があった。そしたら、千代の富士がTシャツ姿で飯を食っている俺の隣に来て、腕の太さを比べて「どうだ」っていう顔をするんだ。「おい、あんた大横綱だろう! なにをしているんだよ!」って思ったよ(笑)。大横綱がわざわざ俺の横に来てそんなことするんだから逆に嬉しいじゃないか! 千代の富士にもそういう面白さ、カッコよさがあったね。
最後は俺自身のダンディズムだ。俺は「天龍源一郎を応援してくれるファンに失望を与えたくない」「俺(ファン)が知っている天龍源一郎はやっぱりカッコいいな」と思わせたい自己陶酔型。プロレスラーがデカイからだをしてコンビニやファミレスでちまちま買い物したり、食事したりする姿を見たらファンはがっかりするだろうと思って、現役時代はコンビニやファミレスは利用しなかった。
引退間近になって初めてファミレスに行ったら「あれ、ウマイじゃない!」と気が付いて、引退してからはどちらも利用するようになった。ずっと行っていなかった分だけ、今になって楽しんでいるんだ(笑)。もっと早く利用していればよかったかなと思う反面、ファンのために利用しなかった俺もカッコよかったとも思っている!
今はからだも衰えて、杖をつきながらスローで歩かなきゃいけない俺がいるけど、ファンにはむしろそんな俺を見てほしい。「これだけからだにダメージを食らうくらい、現役時代は真っ向から相手に立ち向かっていったんだぞ」という気持ちだ。そんな俺を見て「天龍は頑張っていたんだな」と評価してくれたら嬉しいけど、逆に「若い頃は天龍を応援していたけど、今はいいや」と思われてもいいし、「テレビで芸人にイジられている天龍も面白い」と思ってくれてもいい。
絶好調のときに現役を引退していたらいろいろと未練もあっただろうが、やるだけやって納得して引退できて、さらにテレビなんかの新しい仕事ができているから儲けものだよ。たくさんいるタレントの中で、俺がチョイスされるだけラッキーってもんだ。そんな俺への評価は見ている人が好きにしてくれればいい。それが今の俺のダンディズムかな。
(構成・高橋ダイスケ)
天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。