他にも何人もの名前が挙がるが、その多くはオバマ政権の高官であった人々である。

 この4年間、トランプ氏が傍若無人の振る舞いを続けてきたことから、少なくない日本人がバイデン氏当選を期待し、バイデン政権になると日米関係が良くなるのではないかという期待を含めて選挙戦を見ていたと思う。

 しかし、この高官候補の名前を並べてみると、オバマ政権そのものを見るようで、既視感にめまいがするほどである。そして、その既視感は筆者にとって、必ずしも前向きな既視感ではない。トランプ氏よりは人権や民主主義の観点からバイデン大統領の方が良いと筆者も思うものの、誤解を恐れずにいえば、この名簿は、「戦後長らく続いてきた日米関係に戻り、これまでどおりの問題が私たち日本人を悩ませ続ける」という重い心境になるものであった。

 では、具体的にはバイデン政権の対日政策はどのようなものになるだろうか。

 先に述べたとおり、政権の外交担当者の多くがオバマ政権の高官であり、バイデン氏自身もオバマ政権で外交を得意とする副大統領であったことから、バイデン政権の外交政策はオバマ政権に非常に近くなると予想される。

 もっとも、バイデン政権が時計の針を4年前に戻そうとしても、決定的に難しい点がある。一つには、トランプ政権下で悪化した米中関係である。特に今年に入って、コロナウィルスの端緒が中国とされ、また、香港弾圧に代表される中国の対外強硬姿勢がさらに明白になってきていることに対して、米国内に強い反発が起きている。また、熱狂的なトランプ支持者が国民の相当割合を占めていることがこの選挙でも改めて明らかになっており、今後も一定の影響力をもっていくであろうことも4年前と異なる。これらのことが相まって、バイデン政権でも対中強硬路線は続くだろうと多くの専門家が分析している。

 バイデン政権の具体的対中政策を読むには、国防長官候補とされるミシェル・フロノイ氏の論文を読むのがわかりやすい。フロノイ氏は、外交分野でもっとも影響力のある雑誌「フォーリンアフェアーズ誌」に寄せた「アジアにおける戦争を防ぐには」との論文で、中国に対抗するためには米国は自国の軍事力への投資を行うとともに、インド太平洋地域への永続的なプレゼンスを強調すること、また、同盟国やパートナー国との関係を強化することを主張している。そして、同盟国やパートナー国とは、定期的に軍事演習を行い、新しい能力の整備を加速すべきと訴えている。
 

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バイデンでも軍事力強化の要求はくる