ベネチアの至宝と呼ばれるフェニーチェ歌劇場。1792年にオープンして以来、マリア・カラスを始め、世界中のアーティストに愛されてきた。「椿姫」の初演が行われた劇場としても知られている。そんな伝統ある舞台に日々立ち続けている日本人がいる。フェニーチェ歌劇場の合唱団に所属する、メゾソプラノの小澤美鈴さんだ。
現在の劇場は2003年に再建されたもの。1836年と1996年の2度、火災で焼失した。96年のことは小澤さんも覚えている。
「火事だと聞いて、家の窓を開けたら空が赤くなっていました。翌朝は離れた場所からも火事の臭いがして……。それから再建までの7年間は大変。毎日場所を転々として練習し、テントで公演をしていたんですよ」(小澤さん)
今の歌劇場は淡いピンクの壁に包まれ、高揚感に満ちている。
「こういう場所って必要だと思うんです。DVDでオペラを見ることもできるけど、劇場は特別。おしゃれして、シャンパンでも飲んで、おしゃべりして。つかの間でも、“オペラの世界”に生きることができる。そんな社交の場は、これからも残ってほしいですね」
※週刊朝日 2013年2月15日号

