藤井聡太(18、左)/永瀬拓矢(28) (c)朝日新聞社
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AERA 2020年11月16日号より

 高校生棋士、藤井聡太二冠(18)を筆頭に、8大タイトルを分け合う渡辺明名人(36)、豊島将之竜王(30)、永瀬拓矢王座(28)の「4強」が視線を集める将棋界。しかし勝敗の行方はもちろんだが、その背景にある棋士たちの性格や関係性、相性に注目すると、勝負はより面白くなる。AERA 2020年11月16日号では、棋士たちの人間性が垣間見えるエピソードを取り上げた。

【藤井二冠の勝率は…?将棋界の「4強」の対戦成績はこちら】

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 オールドファンに懐かしいのはタイトル80期の故・大山康晴十五世名人をめぐる相性だろう。

 地味な指し手で長丁場に持ち込んで勝つ棋風が素人受けせず、不敵な容貌とあまりの強さで人気の出なかった大横綱、北の湖と並び称された「昭和の巨人」は、羽生善治九段(50)の師匠でもあり日本将棋連盟会長を長く務めた故・二上達也九段に116勝45敗、そして初代中学生棋士の加藤一二三九段(80)に79勝46敗と圧倒した。

「本来なら実力的にも順番に二上九段と加藤九段が永世名人になっていておかしくなかったけれど、若い時に大山さんに徹底的に叩かれて差がついたと言われています」(将棋ライターの松本博文さん)

「お得意さん」から星を稼いで天下を長らく維持した大山永世名人は、盤外戦術にも長けていた。大食漢で鳴らし、タイトル戦では相手の2倍もの食事を平らげて威嚇したという。

 大山永世名人の生涯のライバルとして知られた故・升田幸三実力制第四代名人は逆に、派手な指し手と豪放磊落な生き様が人気を呼んだスターだったが、長考する年下の相手に「小僧、早く指せ」とプレッシャーをかけたとも伝えられる。いずれも勝負師としての気概に満ちた逸話だが、常に中継のカメラが対局室に入っている現代では、途端に世論の炎上に晒されるに違いない。

■藤井と永瀬のいい関係

 よくも悪くもスマートさが求められ、AIを用いた最新研究が欠かせない現代の将棋界。しかし、人間味に溢れるエピソードがなくなったわけではない。

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