主演の窪田正孝と二階堂ふみ(C)朝日新聞社
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 NHKの連続テレビ小説「エール」が完結した。思えば、コロナ禍に振り回された8カ月である。

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 2カ月以上の中断に放送回数の縮小、目玉キャストのひとりだった志村けんの出番も減り、スケジュールのズレから再開後は出られないキャストも複数いた。クライマックスとして用意されていた「オリンピック・マーチ」のエピソードも、二度目の東京五輪が延期されなければもっと盛り上がっていたかもしれない。

 とはいえ、災い転じてというところもある。中断期間には初回からの再放送が行われ、キャストが週替わりで解説を務めて楽しませた。また、コロナ禍という負の状況が「エール=応援」というコンセプトにハマり、むしろ切実に励まされた人もいるようだ。

 そんな数奇な運命をたどった朝ドラの最終回は、音楽ドラマらしいものだった。主人公のモデルである作曲家・古関裕而の名曲をキャストたちが歌うコンサートという趣向。なかでも、話題を集めたのが武骨な馬具職人を演じた吉原光夫による「イヨマンテの夜」だ。劇中、ヒロインの母(薬師丸ひろ子)が発した「岩城さん、歌うまいのよ」というせりふを実証する、堂々たる歌唱で一気に株を上げた。

 そう、最終回はさながら、古関メロディー縛りの「ミニ紅白」だった。いや、このドラマそのものが、何カ月もかけた壮大な歌合戦のようでもあり、さまざまなキャストがさまざまな歌をうたった。歌も演技のうちというか、その出来が作品を大きく左右するのが音楽ドラマなのだ。

 そこで「エール」の音楽通信簿をつけてみたい。まずは、個人編である。

 特Aランクに推したいのが、主人公の恩師で戦死する役を演じた森山直太朗だ。もともと劇的な歌唱を得意にしており、また「生きてることが辛いなら」のような、生と死を見つめた楽曲にも定評がある。それゆえ、死の前日に戦場で歌われた「ビルマ派遣軍の歌」は最期への予感とともに、残される者への愛も感じられる、詩情あふれるものとなった。

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絶妙だった二階堂ふみの「アマチュア感」