植野広生(うえの・こうせい)/1962年生まれ。法政大学入学を機に多数の飲食店でアルバイトを経験。2001年、プレジデント社に入社。17年から「dancyu」編集長。「日本一ふつうで美味しい植野食堂」(BSフジ)などに出演中(撮影/写真部・張溢文)
植野広生(うえの・こうせい)/1962年生まれ。法政大学入学を機に多数の飲食店でアルバイトを経験。2001年、プレジデント社に入社。17年から「dancyu」編集長。「日本一ふつうで美味しい植野食堂」(BSフジ)などに出演中(撮影/写真部・張溢文)
この記事の写真をすべて見る

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。「書店員さんオススメの一冊」では、売り場を預かる各書店の担当者がイチオシの作品を挙げています。

dancyu編集長による『dancyu“食いしん坊”編集長の極上ひとりメシ』は、立ち食いそばも高級フレンチも同様に楽しむ「食いしん坊」が、読者の目線に立ち、今よりもっと楽しめる食べ方や店とのつきあい方を温かく語る食エッセーだ。著者である植野広生さんに、同著に込めた思いを聞いた。

*  *  *

 ナポリタンはまずそのまま食べ、次は粉チーズをふったフォークでスパゲティを巻いてから口に運ぶ。さらにスパゲティをフォークに巻いて、粉チーズやタバスコをふったパターンでも食べてみる。

 さすが自他ともに認める食いしん坊の「dancyu」編集長の植野広生さん(58)だ。本書の冒頭から、おいしく食べる「ひとりメシ」の極意が披露される。

 植野さんはナポリタンや牛丼、かき揚げそばなどの庶民的なメニューでも、完食するまでの間、驚くほどさまざまなバリエーションをつけて食べている。しかも、どれもが簡単で楽しく、すぐに試したくなってしまう。

「文章で書くと細かいんですが、ささっとやっているので隣に座っている人は気づいていないと思いますよ」と笑う。

 おいしいものの指南役として、テレビやラジオで冠番組も持つ植野さんだが、じつはこれが初めての著書だ。

「書名には僕自身、ひとりメシが多いことと、ひとりで食べながら飲食店を中心に日本の食の今と未来を考えた、という意味を込めました」

 その言葉通り、中盤以降は、いい店の探し方やつきあい方、おいしい時間を過ごす心得などが、温かくやわらかな筆でつづられている。

「飲食店は高級店と格安店に二極化しつつあります。食べる側も口コミやランキング情報に振り回されがちです。でも、食べることって純粋に楽しいですよね。食材や食べ方には探究心も刺激されます。そんな体が感じる素直な喜びを大切にしてほしいんです」

次のページ