「御朱印」ならぬ「鉄印」が静かなブームだ。全国39のローカル線でもらえ、個性豊かなデザイン。鉄道ファンでない人の「参戦」も相次いでおり、経営難を救う光明になっている。AERA2020年12月7日号の記事を紹介する。
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一見、神社仏閣で授かる「御朱印」と見間違う。だが、これがいま鉄道ファンの間でアツイと話題の「鉄印」だ。
10月最後の日曜日。群馬県と栃木県の山間部を走る第三セクター鉄道「わたらせ渓谷鐵道」の大間々駅(おおままえき)(群馬県みどり市)を訪ねると、切符売り場には次から次へと、鉄印と鉄印帳を買い求める人たちが来た。
「いやー、もう大変です」
窓口の男性駅員はうれしい悲鳴を上げる。
3日前に鉄印帳を50部入荷したが、残りあと2部。当日中の完売はほぼ間違いないという。
「鉄印だけでも多い日は40枚近く売れます。小さいお子さんからお年寄りまで。まさかここまで人気になるとは思ってもいませんでした」(男性駅員)
■鉄印帳はすでに3万部
この鉄印は「第三セクター鉄道等協議会」(三セク協)に加盟する全国の第三セクター鉄道40社が7月10日から始めた企画で、三セク鉄道に乗車した証しだ。各鉄道会社の指定窓口などで台帳の鉄印帳(2200円)を購入し、乗車券の提示と記帳料(300円~)を支払うと各社のオリジナル「鉄印」がもらえ、鉄印帳の所定の場所に貼っていく。
鉄印は縦14センチ×横11センチほど。手書き、スタンプ、印刷などがあり、デザインもイラスト入りやカラフルなものなど各社ごと工夫を凝らしたものばかり。購入時には日付も入れてくれるのだ。
この日、わざわざ鉄印と鉄印帳を買いに大間々駅を訪れた、埼玉県在住の鉄道ファン、いわゆる「鉄ちゃん」だという会社員の男性(42)は満面の笑みを見せる。
「これを持って全国の三セク鉄道を乗りつぶします」
鉄印帳を発案したのは、熊本県の人吉・球磨地域を走る「くま川鉄道」の永江友二社長(56)。かねて全国的に経営が厳しい三セク鉄道を盛り上げたいと思っていたところ、妻が御朱印帳を持って神社巡りをしているのを見て、ひらめいた。
「同じことを三セク鉄道でやれば、鉄道にあまり興味がない人も取り込めるのではないかと思いました」
このアイデアをもとに、旅行読売出版社が鉄印帳を商品化。ただ、徳島県と高知県にまたがる「阿佐海岸鉄道」は工事中のため、現在は39の三セク鉄道が参加している。また、くま川鉄道は7月の豪雨で甚大な被害を受け全線不通となったため、ネット販売で対応している。