アジアの街なかで見知らぬ人々とハグする「フリーハグ」の動画が、共感と批判の両面から「バズり」を生んだ。「いざというときにダメな自分」に葛藤し、3千キロを自転車で走ってもゴールで感じたのは虚無感。そんなとき、中国・西安で反日デモに出合った。暴動を見せまいと赤ちゃんの目をふさぐ母親の姿があった。自分の見ている世界を見てほしい。そんな思いで始めた活動はちょうど10年になる。
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ソウル・光化門(クァン・ファ・ムン)広場、2019年8月。中央官庁やオフィス街の真ん中にある、東京でいう日比谷公園のような空間には、空を飛び交うカササギも驚く、耳をつんざく言葉が響きわたっていた。500人を超す市民が、ハングルで「ノー安倍」と書かれたプラカードを掲げ、芝生広場で糾弾集会を開いていた。元徴用工への賠償を求め、韓国政府のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄決定を支持していた。
広場の真横で、黒いアイマスクをして両手を広げて立つ一人の日本人青年がいた。桑原功一(36)。白いTシャツには「FREE HUGS FOR PEACE」の文字。彼の横に置かれた看板には、こんな文言が記されていた。
「日本にも日韓友好を願う多くの市民がいます。韓国にも同様の多くの方々がいると思っています。私は皆さんを信じます。皆さんも私を信じて下さいますか。Give me a HUG」
最初はいぶかしげに眺めていた市民の中から、彼とハグ(抱擁)する人が現れた。そして、その数はみるみる増えていく。ある者は強く抱きしめる。ある者はポンポンと背中を叩くように。水の入ったペットボトルを差し入れる子ども。「あなたは勇者だ」と耳元で声を掛ける人。抱き合ったまま、涙を流し始める高齢の男性もいた。この光景は韓国放送公社(KBS)テレビの夜9時のニュースで詳報され、動画は韓国内外に拡散し、大きな反響を巻き起こした。
フリーハグは、見知らぬ人々と「ただハグする」活動だ。抱擁することで、苦しみや悲しみを和らげ、楽しさや幸せを分け与えると考えられている。米国で2001年頃に始まり、ネットの普及で世界中に運動が広まった。
視覚を遮断するため、誰が来るかわからない。その孤独や恐怖たるや。でも、と桑原は言う。「目隠ししていると、注目される。メッセージを理解してくれれば、一歩踏み出してくれる人はきっといる。そう信じ続けているんです」