エッセイスト 小島慶子
エッセイスト 小島慶子
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本誌11月30日号でも詳報した「性差の日本史」展では、娼妓が使った鏡台や、客の滞在時間を計る香炉なども展示された (c)朝日新聞社
本誌11月30日号でも詳報した「性差の日本史」展では、娼妓が使った鏡台や、客の滞在時間を計る香炉なども展示された (c)朝日新聞社

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

【写真】「性差の日本史」展で展示された 娼妓が使った鏡台などはこちら

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 12月6日まで開催されていた国立歴史民俗博物館の「性差(ジェンダー)の日本史」展は大盛況で、図録のオンライン注文が殺到とか。私も見てきました。

 同展は「政治空間」「仕事とくらし」「性の売買」の切り口で、日本の男女の役割の変化をたどるもの。女性首長も珍しくなかった古代から時代が降るにつれて、男性の主流化が進みます。江戸に入るとメディア(絵画)で女性が鑑賞物として描かれるようになり、人身売買による幕府公認の売春(遊郭)に群がる、巨大な金融ネットワークが誕生。性搾取ビジネスは、幕府の財政や江戸経済にとって不可欠の存在に。呉服屋などの大店は、住み込みで働く大勢の男性労働者の性を管理し、使い込みを防ぐために特定の遊郭と契約を結び、売春ビジネスを支えました。男性は労働力として店主に管理され、その男性に買われる女性は性的な商品として楼主に搾取される構図です。明治以降も人身売買で借金を負わされた女性が過酷な性搾取に苦しむ構造は変わらず、1910~20年代には累積で当時の男性人口の9割に相当する男たちが買春する大衆買春時代に。男たちは妻子に貞操を説きながら、日常的に買春していたのです。

 令和の世はどうでしょうか。経済的に困窮した女性たちが決して安全とは言えない労働環境に追い込まれ、男性がモノを買うように日常的に性を買い、そこで働く女性が貶められる構造は変わりません。行き場のない若い女性がネットで出会った男性による性暴力や性搾取の被害に遭っても「自己責任」と言われ、男性は責められない。「男の性欲は制御できないから買春は当然」という通説を信じている人も多いですが、歴史の流れを見れば、構造的に作り出された搾取の仕組みだと分かります。

 莫大(ばくだい)なお金を回すために、女性も男性もモノのように扱われ自己責任にされる社会は、今も変わらないのです。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2020年12月14日号