もっとも、現憲法は基本的人権、言論・表現の自由、男女同権など、日本人ではとても構築できない民主的な内容だ。だが、米国が絶対に認められない事柄があった。
軍隊を持つことである。
米国など連合国にとって、日本を安全な国にしておきたかったからだ。緊急事態のわかりやすい例は、他国に攻められるという事態である。その事態に対応するためには軍隊が必要になる。
だが、米国など連合国にとっては、日本に軍隊を持たせるのは危険極まりない。絶対に軍隊を持たせない。そのためには、緊急事態ということが生じない、つまり、緊急事態を認めてはならなかったのである。
そして、戦争と惨憺たる敗戦を体験している日本人たちは、自国の軍隊の危険さを嫌というほど知っていて、米国に自国の安全保障を委ねているほうが安心できる、と捉えていたのである。
だが、戦後世代にとっては、この矛盾はどのように感じられるのか。それを論じてみたい。
※週刊朝日 2020年12月25日号