作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、静岡県で起きた父親による当時12歳の娘への性虐待事件について。東京高裁の控訴審判決は、一審の無罪判決を破棄し、父親を逆転有罪とした。この判決の意味を考える。
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「金曜日が嫌いだった」
そう、12歳の女の子は保護された児童相談所の職員に話していたそうだ。金曜は父親が布団に入ってきて、性虐待をする日だった。「やめて」と声をあげるとおなかを殴られた。
2019年3月、静岡地裁で12歳の娘への性虐待で起訴された男性に、強姦罪について無罪判決が出た。無罪の最大の根拠は、狭い家で他の家族が気づかないのは不自然、という「間取り」を理由にしたものだった。東京高裁は2020年12月21日、この判決を破棄し、男性を逆転有罪とした。高裁の判決は12歳の女の子の証言の具体性を正当に評価した内容で、求刑通りの懲役7年(妥当かどうかは別にして)という厳しいものだった。
これまでの裁判を傍聴していた人に聞いても、どのような判決が出るか感触が全くつかめなかったので冒頭で「懲役7年」と裁判官が言い渡したときは、胸が熱くなった。傍聴席では性被害当事者団体Springの代表理事で、法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」委員の山本潤さんが、花を持ち、真剣な面持ちで判決を聞いていた。
実父や家族から性被害を受ける子どもたちの多くは、自分がされたことが何かを言語化できず、それが犯罪であるということも分からない。たとえ家族に伝わったとしても、社会の目を恐れ、または経済的な柱を失うことを恐れ、被害が隠蔽されることも少なくない。そういう中で、静岡県内に住む12歳の女の子の事件が発覚したのは、児童相談所の職員という他者が介入できたからだった。
女の子は小学5年生になったころから、父親から性被害を受けるようになった。「小学校を卒業したらもうしないで」と言っても聞き入れられず、被害は中学に入ってからも続いた。中学生になったある日、テストの点が悪かったことで父親から体罰を受けたことをきっかけに「家に帰りたくない」と、女の子は中学校で、先生に訴えた。