水素が広く実用化され、商業利用されるためには、さまざまな課題がありますが、水素を燃やす燃料電池による自動車がすでに開発されているので(バスでは、燃料電池バス一台1億円、現在70台が都バスで走っている)、残されているのは水素の獲得・運搬・貯蔵方法ともいえます。日本には水素ステーションが2019年12月現在、112カ所で開業しています。東京には21カ所あります。水素ステーションの建設費が高いのは事実ですが、水素社会の構築には水素インフラが不可欠です。

■    製鉄でも水素を用いてCO2削減

 水素については、発電とは別の利用方法も注目されています。鉄鋼業界のCO2排出量は日本全体の14%と突出して多く、理由は鉄の作り方にあります。鉄鉱石中の鉄は酸化された酸化鉄、コークス(炭素)を使って鉄鉱石から酸素を奪えば(還元)鉄ができ、CO2が発生します。したがってCO2削減のためには、製鉄の抜本的な変更が欠かせません。コークスの代わりに、還元剤として水素を用いれば排出されるのはCO2ではなく水となります。この実証実験がすでに日本製鉄君津製鉄所で進んでいます。

 ごく最近、三菱重工も同じ試みとなる世界最大級の実証プラントをオーストリアの鉄鋼大手と開発し、2021年にも欧州で稼働を始めると報道されました。

■    日本の未来への投資と考えて

 水素によるエネルギー獲得手段は、現状ではコスト競争力はないかもしれませんが、今から投資しておくことは、中長期的に我が国にとって大きな財産になるでしょう。政府は、2017年に策定した水素基本戦略を前倒しして、2030年に水素利用量を30万トンから1000万トンに引き上げる調整に入ったとのこと、この計画をさらに進めるべきだと思います。

「脱炭素」や「低炭素」が叫ばれていますが、CO2を悪玉にしないで、その有効変換・利用を考える意味から、「新炭素」という言葉も生まれています。人工光合成のようなCO2の有効変換・利用を考えれば、CO2と親しくする意味から、筆者は「親炭素」と標榜したいところです。

 そろそろ、わが国の未来の電気エネルギーを真剣に考えなければなりません。原発の問題を議論すると、必ず再生可能エネルギーの利用が持ち上がります。無尽蔵の太陽光と無尽蔵の水を使って、ある種の触媒を用いて、常温常圧で簡単に水を水素と酸素に分解する方法を至急に開発する必要があります。

 水素と酸素が反応、電気が発生し水が生成する、水はまた簡単に水素と酸素に分解される、このことが実現されれば電気エネルギー問題は解決します。水が循環するだけですから究極の再生可能エネルギーです。

<プロフィール>
和田眞(わだ・まこと)/1946年生まれ。徳島大学名誉教授。理学博士(東京工業大学)。徳島大学大学院教授や同大学理事・副学長(教育担当)を務めた。専門は有機化学。現在、雑誌やWebメディアに「身の回りの化学」を題材に執筆している

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