貝と人とのかかわりはとても古く、私たち人間の祖先も貝を食べていた。また、約5万年前のネアンデルタール人は、ほたての貝殻に穴をあけてひもを通し、身につけていた。今回は、料理研究家の柳谷晃子さんが、そんな「貝」を紹介する。

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 日本は世界的にみても貝塚が多い国で、その調査によると、縄文人がよく食べていた二枚貝は、真牡蛎、蛤、あさり、しじみなどでした。巻き貝では、あかにし、つめたがいなど多岐にわたります。貝塚からはタニシやかたつむりも出土していますが、これらも陸貝とよばれる貝の種類なんですよ。

 原田信男著『江戸の食生活』(岩波現代文庫)には、江戸時代の風俗を紹介するも『守貞謾稿』の食物関係振売一覧が掲載されていて、蛤、あさり、ばかなどの「剥き身売」が出てきます。そこには「江戸に貝蔬(かいそ)甚だ多し」と記され、普段から貝類を食べていたことがわかります。深川飯が生まれたのも納得ですね。「貝はあたるから気をつけて」とよく言われます。例えばあさりは、3月から5月ごろに毒性をもつプランクトンが増加し、数種類の貝毒が発生します。この貝毒は加熱しても毒性が消えないため、調理したものでもあたってしまいます。

 一方、生食が多い牡蛎は一般に食中毒が多い春や夏ではなく冬にあたることが多く、その原因はノロウイルスだといわれています。私は、召し上がる方の体力が弱っていると、牡蛎の滋養に体がついていけなくて「あたる」こともあるのではないかな、と思っています。衛生に気をつけながら、おいしくいただきましょう。

週刊朝日 2013年3月29日号