■自分でも不思議
演技では、ボンデージの衣装で足を広げたり(「ルパンの娘」)、片思いの男性の恋人にサイコパスな嫌がらせを繰り返したり(「M 愛すべき人がいて」)、“あざとさ”を超えた“際どさ”でも話題をさらった。
田中:あんな部分が私の中にあったなんて、自分でも不思議で。「M~」では、共演の水野美紀さんの演技がすごくて、そこから学ばせていただきました。同じく共演の三浦翔平さんから、「エキセントリックな役なら、思いっきり振り切った方がいい」と助言されたことも大きかった。実は私、筋金入りのドラマ好きで、今も地上波のドラマはワンクールで10タイトルを見ています。子ども時代は、「ひとつ屋根の下」が大のお気に入りで、そういう“基礎知識”を持っていたのも、よかったのかも(笑)。
昨年末に出演したNHKドラマ「ノースライト」では派手な役柄から一転、建築事務所の事務員という地味な役柄を演じた。
田中:え、いたの? というぐらいの出番。それこそ身の丈というか、身の丈以上の役をいただき、まっさらなところから芝居を作っていく手応えを感じることができました。私の芝居経験はたった2年ほどで、プロの俳優の方々とは比べようがありません。現場に入って、元・局アナが何でも屋さんになって、ちょっと芝居をやっているね、ということは、あってはいけない。自分のいたらなさで作品が汚れてしまうのは、絶対にイヤなんです。何の専門家でもなく、面白みも薄い私のどこに価値を見いだしていただけるか。それはいつも考えています。
■どんな役目にも応える
強いこだわりを見せながら、表情には、どこか自分の置かれた状況を信じ切れない揺らぎも宿っている。
田中:局アナ時代、マツコ・デラックスさんに徹底的にいじっていただいたおかげで、「ぶりっこ」というイメージが定着しました。アナウンサーとしての認知ではなかったし、バッシングも受けましたが、たくさんの方に知っていただかなければ、テレビでは戦力にはなりません。そういう意味で、どんな役目にも応えていく覚悟はあります。年を重ねると、できることの中だけで生きてしまうと思うので、今、さまざまなチャンスをいただき、柔軟に取り組んでいけることを、ありがたく感じています。
(ジャーナリスト・清野由美)
※AERA 2021年1月11日号