文在寅(ムン・ジェイン)政権も損害賠償を認める判決を望んでいたとは言えない。南北関係を改善できないまま年を越したうえ、1月5日から始まった北朝鮮の朝鮮労働党大会で、金正恩(キム・ジョンウン)党委員長(現総書記)から「南朝鮮(韓国)に善意を示す必要はない」と一蹴されてしまった。残る打つ手は、今夏に予定されている東京五輪・パラリンピックを利用した外交戦くらいしかない。それで徴用工判決問題を解決しようとしていた矢先の慰安婦判決だった。

 それでも、事態収拾に乗り出す気配は見えない。文大統領は11日の演説で、日韓関係に言及したが、慰安婦判決には触れなかった。わずかに、13日に予定されていた別の慰安婦訴訟の判決が延期されたことで、「司法ファシズム」(日本政府関係者)の流れが変わる可能性も見えるが、それでも、8日の判決は変わらない。

 もちろん、日本の世論は沸騰しており、日本側が韓国に助け舟を出したり、一緒に収拾策を考えたりする状況には全くない。茂木敏充外相が9日、外遊先のブラジルから急きょ、康京和(カン・ギョンファ)韓国外相と電話会談に臨んだのも、怒りのポーズを示して、世論をなだめる狙いがあったとみられる。

 日本は控訴する考えがないため、8日の判決は早晩確定する見通しで、司法手続きが進むことになる。ウィーン条約によって外交上の国有財産は保護されているが、どこに落とし穴があるかわからない。「今後の展開は全く読めない」。日本側の関係者たちは異口同音に語りながら、事態の推移を緊張して見守っている。

(文/朝日新聞編集委員・牧野愛博)

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