自民党政権が憲法96条改定に動いている。ジャーナリストの田原総一朗氏は、96条を変更するのは現憲法を変えたいためと推測するが、現憲法のどの部分をどのように変えたいのか、その議論がなされていないことに首をかしげる。太平洋戦争を体験している身として、この問題についてこう確信していると言う。
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自民党政権が何より変えたいのは、当然ながら憲法9条であろう。
保守本流の政治家、あるいは学者の多くは、現在の憲法は1946年、つまり日本が連合軍に占領され、まったく主権を失っていた時代に、占領軍にとって都合のよい形を押し付けられた。もっと具体的に言えば日本を弱体化し、二度と連合軍に対して戦いを挑めない国にした。それが憲法9条だというのである。
憲法改定を主張する勢力が強く指摘するのは、日本の外交能力が劣っているということだ。外交技術もお粗末だが、それ以上に独立国として自立できておらず、アメリカの言いなりになっているというのである。
そこで、独立国として自立した外交を展開するには、憲法9条を改定して、日本以外のあらゆる国の憲法と同じように、外交交渉の最後の最後の手段としては国権の発動としての武力行使、つまり戦争ができる国にすべきだというのである。
この主張は一見、論理的に思える。だが、太平洋戦争を体験している私としては、憲法9条の1項は変えるべきではないと確信している。当時の軍の幹部、そして政府首脳の誰一人、太平洋戦争に勝てると予測していなかった。これは厳然たる事実である。昭和天皇も開戦に反対だった。
それにもかかわらず、負けることが必至の戦争を始めてしまったのである。この日本人の体質は、現在も変わっていない。だから少なくとも憲法9条は変えるべきではない。そこで、3月9日にBS朝日の「激論! クロスファイア」に出演した安倍晋三首相にそのことを強く言い、安倍首相は同調した。私は安倍首相を見直した。
※週刊朝日 2013年4月5日号