たとえばイギリスは、中東などからの移民・難民によって、国民の仕事が奪われるので、それを阻止するためにEUからの離脱を決めたのである。

 民主主義とは自分と異なる意見の存在を認めることで、こうした重大な問題については論議が長びき、なかなか結論に至らない。オバマ政権はまさにその典型であった。さらに、中国が経済的にも技術的にも急成長して、米国にとって脅威となったが、オバマ政権は確たる対応ができなかった。

 そこでトランプ氏は、「世界のことはどうでもよい。米国さえよければよいのだ」と宣言し、反グローバリズム、移民・難民禁止、そして対中国闘争の強烈な姿勢を打ち出した。これが豊かではない米国人、こと白人たちの強い支持を得て、隠れトランプが氾濫した。だから、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどの調査では、ヒラリー・クリントン氏が優勢だったのに、トランプ氏が勝った。

 だが、トランプ氏は事を実現するために、民主主義を否定し、意見の異なる存在を敵だと決めつけて、意見が違えばホワイトハウス幹部をハト派でもタカ派でも容赦なく切り捨てた。そのことの危険性を少なからぬ米国民が感じとり、バイデン氏が大統領となったのだが、さてバイデン氏は、トランプ氏の反グローバリズム、米中冷戦をどのように変えられるのだろうか。

週刊朝日  2021年2月5日号

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年生まれ。ジャーナリスト。東京12チャンネルを経て77年にフリーに。司会を務める「朝まで生テレビ!」は放送30年を超えた。『トランプ大統領で「戦後」は終わる』(角川新書)など著書多数 

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