文子のサポートもあって東洋大学社会学部社会福祉学科へ入学し、練習と両立しながら猛勉強して4年で卒業。現在は社会人としてゴールボール体験などの啓発活動や講演にも力を入れている。山口は高校2年の時、全国盲学校弁論大会で優勝しているほどの話し上手。講演はとても楽しく、人気だ。
母と一緒の時の山口は照れもあってか、母の発言に茶々を入れてみたり、話しかけられてもわざと生返事をしてみたり、あまり素直に自分の思いを語ろうとはしない。しかし講演での山口は、とても率直に自分の気持ちを話す。遺伝性の病気だと知った時、母にひどい言葉をかけてしまって悔やんでいること。自分がやりたいと言ったことを決して否定せずいつも可能性を探ってくれて、仕事をしながら常に自分をサポートしてくれた両親に感謝していること──。
東京パラリンピック日本代表内定選手に選出された時、文子は「それはそれはうれしかった」という。
「あの子自身は何も変わらないけれど、みんなから認めてもらえたことは親としてとても誇らしく思います。応援してくれるたくさんの方たちに、恩返しをしてほしい」
山口も気持ちは同じだ。
「全身全霊でプレーし、結果を出してすべての方々に感謝の思いを伝えたい」
(文中敬称略)(ライター・川村章子)
※AERA 2021年2月1日号より抜粋