日銀新総裁の黒田東彦(はるひこ)氏は「2」がラッキーナンバーなのか。4月4日にあった金融政策決定会合後の記者会見は「2」の連発だった。

 市場に供給するマネーの量を2年間で2倍に膨らます。保有する国債は2年で2倍以上にし、物価目標2%を2年で達成する。「白川」から「黒田」に総裁が代わると、日銀パワーは「2倍」になりデフレ退治ができる、ということらしい。だが、この大胆な金融政策の裏で、一部の専門家からは「国債バブル」の危うさが指摘されている。

 黒田総裁の説明では、2014年末までに新たに130兆円の日銀マネーを増発する、という。しかし、130兆円が人々に分配されるわけではない。大半は銀行が保有する国債を買い上げることに使われる。日銀から出たマネーは銀行に溜まる。

 5日の国債市場で10年モノの国債金利が史上最低を更新、0.315%になった。前日の日銀決定を受け、国債の値が上がる(金利は下がる)と見た投資が殺到したためだ。
 
 10年モノの金利が0.3%というのはメチャクチャに低い。低ければ借り手が増える、というのが普通だが、ここまで金利が下がってしまうと0.5%も0.3%も借り手にとって大きな違いはない。おカネを借りてする事業があるか、ということが問題なのだ。金利低下を喜んでいるのは銀行だ。130兆円の日銀マネーがこれから流れ込むのだから、国債価格は上がる。

 いま買えば得する。銀行は融資より、国債運用に励む。

「国債バブル」と市場でささやかれている。1980年代のバブルは金融緩和のカネが不動産や株、ゴルフ会員権などに流れ込み資産バブルを煽った。いまは国債市場で「上がるから買う、買うから上がる」というバブルが起きている。

「国債市場には本来、財政膨脹に歯止めをかける機能がある。消化力を超えた大量の国債が発行されると、金利が上がって発行を抑制する。だが日銀が買いまくれば、その歯止めは失われ、財政規律が損なわれる」

 BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは言う。国債バブルが崩壊すれば金利が跳ね上がる。その時、政府や銀行は大変なことになる。

 だが、そうした発言を正面からするのは、河野氏ら一握りのエコノミストだけだ。

「当局に厳しいコメントはしづらい」(大手銀行の広報担当者)

 金融界には空気を読む人が多い。メディアを賑わす識者の声は「アベノミクス礼賛」がほとんどだが、裏で「国債バブル」を語る人が確実に増えている。

AERA 2013年4月15日号